第7話 迫りくる恐怖


――翌日


 智史はいつも草むしりをしている先生の存在がない事に気が付き、悠夜に思わず話しかけた。


「そういえば先生来てないよな?」

「先生はもう来ないよ……」

「え、なんでだよ」

「それは言えない」

「言えない事なんてあるのかよ?」

「智史まで巻き込みたくないんだ」


 悠夜は黒雨事件の裏に棲む謎の黒い影に震えていた。いくら校長が気に食わなかったとはいえ、たかだか昔の事件一つでこうも豹変するのだろうかと。

 そして、智史に何も話さないのはこの事件に足を踏み入れてはいけない、入るなら1人で入ろうと思っていたからだ。


「おい、悠夜。俺たちって友達だよな?」

「そりゃ友達だよ」

「だったら話を聞かせてくれよ!」

「それは出来ない」

「わかった!何か掴んだんだな!!」


 智史はこういう時は勘が鋭く、大抵のことはお見通しだった。

 しかし悠夜は断固として智史と関わる事を拒否した。


「そうか、そんなに話したくないか……」

「ごめん、智史」

「いいよいいよ、俺なんかどーせ役に立たないだろうしさー!友達なんかじゃないんだよなー!」


 うざったらしく絡んでくる智史は声がデカく、周りの注目をかなり浴びてしまう。

 異端児がバカをいじめているように見えるこの光景は些か、良いものではないだろう。堪らず悠夜は智史に事の顛末を話すことにした。


「なんだってー!?」

「しっ!ばかっ!声が大きい!」

「でもよ、鴉御家が悪い以外に何もないんじゃないのか??」

「それが先生が言うには何か秘密があるっていうんだ」

「その秘密をどうやって知るんだよ?」

「行くんだよ、鴉御家に」

「行くっていつ?」

「今週の土曜日だ」


 こうして悠夜達は鴉御家が存在するであろう高樹山へと向かう事を決めた。

 それからの悠夜はと言うと、自転車のメンテナンスをしたり持ち物のチェックをしたり、それらを毎日怠る事は無かった。それぐらい楽しみにしているのだ。



――土曜日


 意気揚々と先に待ち合わせ場所に着いたのは悠夜だった。 夜も眠れぬくらい興奮していた悠夜は日が昇ると同時に目が覚め、平日の足取りの重さは何処へやらと言ったように待ち合わせ場所に向かった。

 遅れる事5分ほど、しかし待ち合わせ時間には30分もあるだろう。そんな時間に智史もやってきた。

 智史もまたこの冒険のようなワクワクであまり眠れず予定よりも早く家を出たのだ。


「おはよう悠夜!早いなー」

「そういうお前も早いじゃん」

「楽しみなのはお前もだろ?」


 2人、自転車で山へと向かう。暑い日差しが降り注ぐ中、汗を流し長旅をする。

 走っている最中は目的なんて忘れるぐらい青々とした青春を過ごしている。そう2人は思った。


「智史!あれが高樹山だ!」

「あれかー、でけーな!!」


 悠夜達の視線の先には、他の山より一際目立つ大きさの山が存在していた。

 その大きさに目を奪われた2人だが、目的地がそこまで迫っていたので全速力で飛ばした。


 しばらくすると山の麓に着いた。

 自転車を止め、悠夜達が見上げるその山は名前の通り背の高い木々が伸びており、迫力に圧倒される。

 それと同時に麓からは鴉御邸宅が見えない事に不安を覚えた。


「これを登るのか……」

「なんだよ、悠夜怖いのか?」


 智史が茶化しながら聞いた。

 それに対し悠夜は笑いながらこう言った。


「いや、ワクワクしてて震えが止まんねぇよ」

「だよな!」


 2人は山道を道なりに走った。

 しばらく走ると高い塀が現れる、これは鴉御邸宅なのか?塀は道沿いに続いており、ひたすらこれを追いかける。

 すると、突然似つかわしくない大きい門が現れた。


「なんだよこれ!」

「もしかしたらこれがそうなのかもしれないな」


 2人は門を開けようとした。

 だが、その門は固く施錠されておりびくともしなかった。ここまで来て何も無しでは悲しすぎる。

 もう少しどうにかできないかと考えた時に智史がこう提案した。


「これ登っちゃえばいいんじゃね?」

「……は?」


 高さは2メートル以上あるが、登ろうと思えば登れる高さだった。

 しかし、ある程度年数が経っている様に見える塀はいつ崩れるか分からない恐怖もあった。


「ちょっと登ってみるわ!」

「やめとけって!」

「いけるいける!」


 智史は塀の半分程登ったあたりで悠夜に言った。


「ほら!悠夜も来いよ、余裕だぞ!」

「そうは言ってもな……」


 すると突然、遠くから怒号が聞こえてきた。


「おいお前ら!!何やっとるんじゃ!!」


 突然現れた謎のおじさんに、2人はびっくりし慌てた。


「おい!智史逃げるぞ!」

「お、おう……ちょっと待ってくれ!」

「こら!早く降りろ!!」


 迫ってくる謎のおじさんにたじろいでいるうちに、智史は足を滑らせた。


「うぉおおっ!?」

「大丈夫か!?」


 落ちて痛がる智史心配しているうちに謎のお爺さんとの距離はゼロになってしまった。


「だから言わんこっちゃない!ほれ、お前ら俺んとこ来い!」


 痛がる智史に肩を貸しながら悠夜は謎のお爺さんに連れられてしまった……

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