第6話 蠢く恐怖


 悠夜は謎のメモを母親に見せて言った。


「母さん、このメモ知ってる?」

「んー?メモ?」


 母親は手を止め悠夜の話を聞く。


「捧げしなんたらを決意したってとか書いてあるんだよ」

「へー、何だろう?捧げしもの?」

「分かんないならいいや、ありがと」


 そう言って悠夜は再び部屋へと戻った。

 とりあえずメモは机の片隅に置いておいて、再び課題の続きをする事にした。

 都合よくメモが挟まっていたページが開いていたのでこのページの話をまとめる事に。


 そのページには、ベイズ村という村が滅んでしまった話が書かれている。内容はこうだ。

 ベイズという村は非常に食料が豊富だった。それはこの村の民族が食べる物に抵抗がなく、ありとあらゆる物を食べていたからだ。

 ある時、村の周りを開拓している時に草が生い茂っている場所を見つけたベイズ村の1人は、大喜びでその草を食べてしまった。

 何日か経ったある日、ベイズ村の人々はみんな苦しみ悶えていた。

 そしてこの村には医者が居なかったためそのまま滅んでしまった……

 後に分かった事だが、村の周囲に生えていたのは”生いし草”と呼ばれており、この地域では沢山自生してる植物だった。

 これは別名”美味し草”と呼ばれ猛毒を持っている植物だと分かる。恐ろしい事にこの草の毒は人に感染る。

 少量であれば視覚障害程度で済むが、こっそり食べた1人は物凄い量を食べたのだろう。そこから村の人々に移り滅んでしまったのだ。


「(んー……まあこれでいいか)」


 悠夜は本に書いてある事を写しつつ、所々を別の言葉で言い換えまとめた。

 次に悠夜は昨日の昼休みに先生から聞いた謎の独り言の意味を知るために地図を広げる。

 悠夜の暮らしている村は山々に囲まれており、その大小様々な山には名前がついている。


「(光り輝く山か……)」


 くまなく地図を探してみると悠夜はある山を見つける。

 それは光輝山と呼ばれる山のようだ。

 しかし、悠夜はある事に気がつく。この名前の山はこの村にはないという事を。


「(光輝山……コウキヤマ……そうだ!)」


 地名や山や港などは、時代が変わる毎にその名前も変わる事がある。今悠夜が見ている地図は20年前の地図だ。

 そこで悠夜は新しい地図と場所を照らし合わせてみるとようやく先生の独り言の謎の半分が分かった。

 その場所は”高樹山”だ。昔は太陽が山にかかる姿が光り輝く様に見えたところから光輝山と呼ばれていた。

 しかし今は高い木が多いところをとって高樹山となっている。

 残るは半分、カラスの部分だ。この部分が悠夜の頭を悩ませた。

 最初に聞いた時から山の部分は大体が想像がついた。

 だが、カラスの部分だけがどうにもピンとこない。先生は何故こうも分かりにくい暗号を残したのだろうか?行き詰まった悠夜はもう一度最初から考え直す事にした。

 黒い雨の原因は鴉御家だ。ここで悠夜はピンときた。鴉御という名字にはカラスという漢字が入っている。

 つまり、高樹山に鴉御家があるという事だ。

 ここで悠夜の頭の中に一つ疑問が浮かぶ。鴉御家はこの世には存在しないのではないのかと。

 あの一件以来、鴉御家は世間に顔を出す事はない。何故なら一家心中を図って死んでしまったからだ。

 ならば何故、先生は悠夜にこの言葉を残したのだろう。

 答えにたどり着いた悠夜だが、心中はモヤモヤしたままだ。


――翌日


 昼休み、再び先生のいる用務室を訪れノックをして部屋に入ろうとする。

 しかし、鍵がかかっていて開く様子はない。仕方なく悠夜は外から先生を呼んだ。


「せんせーい!昨日の事なんですけどー?」


 すると中から先生が現れ、口に指を当て静かにといった様に口を動かした。悠夜は声のトーンを落とし、小声で先生に話しかける。


「どうして小声なんですか?」

「私の用務室は盗聴されている」

「え!?本当ですか!?」

「あぁ、そうだ。校長先生が仕掛けたんだ」

「でも何でそんな事……」

「黒雨事件には秘密があるんだ」

「その秘密って鴉御家の事ですか?」

「そこまでたどり着いたなら行ってみなさい」

「先生の口からは聞けないんですか?」


 悠夜が核心に近づこうとしたその時、遠くからある声が近づいてきた。


「おー、先生と大神くんじゃないか!こんな所で何してるんだ?」


 声の主は校長だった。盗聴器で盗み聞きしていたが、不穏な空気を感じ取ったのか用務室まで姿を表した。

 そこで先生はまずいと思ったのか悠夜との話を切り上げた。


「その進路は君にピッタリだと思う。頑張るんだよ」

「先生を辞めてもなお、教え子の進路相談に乗るとは感動しますなぁ〜」

「じゃ、じゃあ先生ありがと!」

「大神くん!君もこの先生みたいに立派な大人を目指しなさい」


 悠夜は逃げる様に去っていったが、先生は校長先生と2人きりで残してきた事を少し後悔した。

 最後に校長から一言あったが、きっと本当の性格ならあの様な事は言わないのだろうと少し違和感を覚え嫌な予感がした。


 次の日、嫌な予感は的中した。

 先生は学校からも消えていた。

 悠夜はひどく後悔し、そして黒雨事件の裏で蠢く巨大な影に少し恐怖した。

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