第5話 独り言の謎
――月曜日
悠夜はあの先生の元へ訪ねた。
訪ねたといっても校舎の片隅にある小さな用務室にだ。
お昼休みの長い時間を使って、悠夜は先生と話をしようと考えていた。
校長や他の先生に見つからない様に細心の注意を払いながら悠夜は用務室へと着いた。
薄汚い入り口のドアの汚れたガラスからは先生がお茶を飲んでいるのが見える。2、3ノックをし用務室へ入る悠夜。
「先生、久しぶりです」
「久しぶりだね大神くん、ドアを閉めて座ってくれ」
「先生、聞きたい事があるんです!」
「なにかな……」
「先生は黒雨事件について何か知ってますよね!!」
「いや、知らないな」
「でも先生、あの時先生は鴉御家の話をしようとしたじゃないですか!その続きを聞かせて欲しいんです!!」
「鴉御家……?何のことかさっぱりだ」
「じゃあ先生は何でこんなところにいるんですか!!」
「歳だからね、私が頼んでお願いしたんだ」
「そんなのおかしい……僕はあの日校長室で聞いたんです、先生と校長の話を!!」
「さあ、休み時間も終わる。さっさと戻りなさい」
悠夜は先生が嘘をついていることぐらいわかっていた。でもどうしても聞きたかった。あの時先生が何を言おうとしてたのかを。
諦めて用務室を出ようとした時、先生はこんな事を口にした。
「カラスは光り輝く場所を好む」
「……え?今なんて……?」
「気にするな、年寄りの独り言だ」
その一言だけを残して、先生は悠夜を用務室から追い出した。謎の独り言に悠夜は混乱しながらも教室へ戻り午後の授業を受ける。
午後は歴史の授業から始まる。
新しく赴任した先生は意外にも早くこのクラスに馴染んでいった。前の先生よりも若くて元気な先生はこう切り出す。
「みんな、今回は課題を出したいと思う」
「えー!課題かよー」
「めんどくさー」
口々に出るのは不満ばかりだったが、先生はそんなクラスメイトの愚痴も気にせず続けた。
「テーマは民族についてだ。私達の生まれたこの地球には様々な人種が住んでいる。新しく生まれた民族もあれば、滅んでいった民族もある。今回はどの民族でもいい、自分が気になった民族の特徴をまとめて来て欲しい」
みんなはうーん……といったように考え出した。
悠夜も同様に民族について考えてみる。考えて考えて、出た答えは……
「(光り輝く山か、カラスか……)」
昼休みに先生が残した謎の言葉の方が気になってしまっていた。
結局悠夜は課題については何も考える事もなく授業も終わりに近づく。
「そろそろ時間だからその辺にしとけー、これは来週に発表してもらうから各自きちんとまとめてこいよー」
「発表ー!?」
「聞いてないよー!」
前の先生の時はこの様なアクティブな授業は少なかった。
先生の話を聞いて、黒板の内容をノートに写して終わり。勉強という観点から見れば新しい先生の方が良いのかもしれないが、全員前の先生の方がいいなと思っている。
最後の授業も終わり帰りの支度をしていると悠夜のところに智史が来た。
「テーマ決まったか?」
「ん?テーマ?」
「そうだよ、民族のやつ」
「あー、まだ決まってないわ。お前は?」
「俺か?俺はなんかスゲー食生活してる民族がいたからそれ」
「スゲー食生活?」
「そうなんだよ!俺たちが普段は食べないような所をありがたがってる民族がいたんだよ!」
「へー、でもお前ん家寺なんだから宗教とか調べりゃいいじゃん」
「んー……俺そういう難しいのムリ!」
それから智史は悠夜の支度が終わるまで、こんなものを食ってたとかこれは美味そうとか今日の晩ご飯はなんだろうとか延々話しかけていた。
悠夜は適度に話を聞き流しながら智史に別れを告げた。
帰り道悠夜はようやく民族について考え始める。
「(民族ねぇ……本棚漁ってみるか)」
悠夜は家に着き、本がたくさんある部屋に向かった。
部屋に入るとそこには部屋中に本棚が並んでおり、その棚の中は本でぎっしり詰まっている。
悠夜の家は本がたくさんある、それは母親のおかげだ。
悠夜の母親は小さい頃ひどく貧しい思いをした。学校にも行けずやりたい仕事にも就けなかった。自分に子供が出来たら、せめて勉強に不自由しないような環境にしてあげたいと思いたくさんの本を買った。
悠夜はその沢山ある本の中から1冊選んだ。
「これこれ、ぴったりじゃん」
悠夜が手に取ったのは”民族が滅んだ恐ろしい病気”という本だった。悠夜は物騒な本だなと思い周りを見渡してみるが、他に良さそうな本がなかったためこの本をキープした。
次に悠夜が探した本は古い地図だ。昼休みに聞いた先生の話から悠夜は山に関係すると考えついた。20年ほど前の地図を手に取り悠夜は自分の部屋へと戻った。
自室に戻った悠夜は、先に課題の方から取り掛かろうと民族の本を開く。パラパラとめくっていると、あるページで目が止まった。
何故かそのページには一枚の折り畳まれた紙が挟まっている。悠夜はその紙を取って開いてみた。
「捧げし……決意した……?」
悠夜はその紙に書かれてる文字を読もうとしたが、所々擦れてしまっていて読めない。
どうにも気になった悠夜は課題のことを置いて母親の元へと向かう。
何故ならこの本を買い揃えたのは他でもない母親だからだ。母親なら何か知っている、そう思い悠夜は晩ご飯の支度をしているキッチンへと向かった。
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