第4話 好きな事


 家に着いた悠夜は久々に動いたからか、ベッドにぐったりと横になった。

 悠夜は貰ってきた本を眺めながらこれだけでも収穫があっただけ良かったかと思った。

 しかし、黒雨事件の記録とは一体何なのか?考えても仕方がない。黒塗りなのだから。

 掃除の疲れを取るべくとりあえずお風呂へと向かう悠夜。

 お風呂へと向かうにはリビングを通らなければならないのだが、ここでいつもはいないあの人がいた。


「おー、最近どうだ?」

「どうっていつも通りだよ。それより帰ってきてたんだ」

「あぁ、少し落ち着いたからな」


 リビングにいたのは悠夜の父、賢治だ。賢治は町会議員をしている。

 いつもは忙しく家にいることが少ない賢治は悠夜のことを心配している。

 しかし、悠夜からしてみれば仕事にかまけて家の事を疎かにしているクソみたいなオヤジだと思っている。

 賢治はどうしてこんなに忙しいのかというと、町会議員をしているからだ。

 いつもバタバタしており家にいたら家族に迷惑をかけると思い単身赴任している。

 ただ、家が近い為時間が出来るとこうして戻ってくるのだ。


「悠夜もそろそろ進路を決めないといけないだろ」

「わかってるよそんなの」


 思春期の子供は些細な事でも反抗してしまう。

 父親の心配もあまり悠夜には伝わらないようだ。


「ひとつ言っておくが、うちは代々議員の家系だ。だが、お前が議員になるのは反対だ」

「え?何でだよ?」

「何でもだ。お前は父さんみたくなって欲しくないんだ」

「父さんは爺ちゃんの助けをもらって議員になったんだろ?それなのにずるいでしょ」

「いいか、よく聞くんだ。父さんはなりたくてなったわけじゃないんだ。それは今でも後悔してる。だからお前には自分の好きな事をして欲しいんだ」


 賢治の過去は悠夜にはわからない。

 でも、普段話さないからこそ今こうやって真剣に話してくれている賢治の顔を見て悠夜は体の中に芯が通った。

 今まで黒い雨について気になって調べて分からなくなって……それを繰り返していたが、もう少し踏み込んでも良いんじゃないか?

 そう思った悠夜はお風呂に入ろうとしてた事も忘れて部屋へと急いだ。


「悠夜、どうしたんだ?」

「好きな事見つけたんだ!」


 それを聞いた賢治はホッとしてまた忙しい中のひと時を過ごした。

 一方、部屋へと戻った悠夜は今日貰った本を開いてしらみつぶしにチェックした。

 もしかしたら見落としていた場所があるんじゃないかと期待をしたがそれははかない夢だった。

 諦めて本をパラパラとめくり、遊びだした。

 何度も何度もパラパラとしているとある事に気がついた。

 最初のページが湿気か何かで貼り付いて固まっていた。

 悠夜はそれを慎重に、はやる気持ちを抑えながらめくっていく。

 結果として隠れていたページは3ページ1ページ目と3ページ目は白紙、しかし2ページ目に悠夜は目を丸くした。


「こ、これって……」


 黒塗りばかりだった本の中で唯一残っていたのは目次だった。これには悠夜は大喜びで部屋を駆け回った。

 決して大きな手がかりになる訳ではないが、自らの手で一方謎に迫った事が嬉しくてたまらないのだ。

 しかし、肝心なのは何が書いてあるかだ。いくら目次だからといっても関係なければ話にならない。

 悠夜は目次の一番最初から目を通す。そこには……



黒雨事件の記録


1.事件発生の日時

2.現場の状況

3.被害者名簿

4.本件の当事者及び、関係者について

5.各所、報告の有無



 黒塗りが無ければどれも黒い雨に関する謎に大きく近づく。

 悠夜は悶々としたが、こればかりはどうしようもない。光に当てても、消しゴムで擦っても黒塗りは消えない。

 誰が何の為にこれを消したのか、そしてなぜ智史の家にあったのか謎は深まるばかり。

 悠夜は誰か少しでも知ってる人がいないかと探した。すると1人心当たりがある人物を思い出した。


 それは、あの日校長に注意された先生だ。

 あの人に聞けば少しは何か分かるかもしれないと悠夜は期待に胸を膨らませながら眠ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る