第2話 古城で眠れる王子様を発見しました

それから数日後。

アンジェリカは、初夏の風が吹き抜ける緑豊かな別荘地へやってきていた。


古いものを集めるのが好きな父が、ある古城を買い取ったのだ。

棘のある蔦がみっしりと石壁を覆い、陰鬱な雰囲気を漂わせる城だが、一歩足を踏み入れると中は小綺麗に掃除されていた。


王家がずっと所有していたらしいが、手入れや管理にも金がかかるため、このたびオークションに出されたところを父が買い取ったと聞いている。


アンジェリカはメリーを伴い、一足先に城の見学を始めた。

もちろん、護衛の騎士や世話人らもぞろぞろとついてくる。


五階建の城はさほど広くはなく、二時間もあれば一通り見学することができた。

ところが、そろそろ戻ろうかと思ったとき、無意識のうちに壁に触れたアンジェリカは隠し通路を見つけてしまう。


「まぁ!お化け屋敷みたいね!拷問部屋でも出てくるのかしら?」


好奇心旺盛なアンジェリカは、護衛が止めるのも聞かずに隠し通路を進む。

そして大きな鉄の扉を発見し、躊躇せずにそれを開けると、地下なのに木漏れ日のような温かな光が差し込む空間が広がっていた。


「すごい……!魔法みたい」


驚いて目を瞠るアンジェリカ。

そして次の瞬間、部屋の中央にあった四角い大きな箱に気づく。


「黒い棺?誰かのお墓なのかしら」


棺桶にしか見えない漆黒の箱。

しかし密閉するどころか、フタすらない。


「誰かいる」


もうずっと、誰も立ち入っていないはずなのに。

不思議に思い棺に近づくと、青白い顔の青年が眠っていた。


「お嬢様!生きていますよね、この方!?」


メリーが慌てて、棺の中を指差す。


「なんて素敵なの……?」


かろうじて息はしているが、健康とはかけ離れた青白い肌。身なりは上質な衣装を纏っているが、痩せた首や手は痛々しい。


そんな青年を見て目を輝かせているのは、アンジェリカ一人だった。


「お父様に報告しましょう!この方を別荘にお連れするわ」


「「正気ですか、お嬢様」」


呆気にとられる面々に、彼女は満面の笑みで頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る