千年ぶりに目覚めた貧相な王子様が理想通りだったので、生かさず殺さず支えたい。

柊 一葉

第1話 アンチ筋肉を掲げています

ここは、とある国のとある街。

国民のほとんどが脳筋と呼ばれるパワー系で、「力の強いものが正義」という価値観が定着している。


かつては魔法大国とも言われた国だったが、今では魔法使いは絶滅危惧種。

筋骨隆々の騎士が闊歩する風景がおなじみだ。


国内随一の商家の娘・アンジェリカは、そんな脳筋が大の苦手なお嬢様。

十七歳になり、そろそろ婿取りをと両親は意気込むが、マッチョ騎士の見合い写真を見るたびに大泣きして拒絶している。


淡い紫色の瞳に大粒の涙を溜め、ストロベリーブロンドの柔らかな髪を振り乱して拒否されると、彼女を大切に育ててきた両親は無理強いできずにいた。

見合い話を持ってきた親戚でさえ、「人選が良くなかったようだ」と言って引き下がっていく。


(ふん、あんなムキムキな人と結婚なんて絶対に嫌!強い人はすぐに力を誇示しようとするし、口調は偉そうだし、暑くもないのに袖まくりしている姿を見せられた日には眩暈がするわ)


「腕の立つ男は全員滅びろ」

それがアンジェリカのモットーだった。


使用人のメリーは、そんなアンジェリカの好みのタイプを熟知していて、その上で「現実を見て、諦めて結婚しろ」と諭す。


「探せばいるかもしれないじゃない!このあいだ出会った美術館の館長なんて、なかなかのガリガリだったわ。服を着ていてもわかる体の薄さ、覇気のない目、やる気のない口調……!かなり私のタイプだったけれど」


メリーは主人と共にため息をつく。


「既婚者でした、わね。館長ともなると三十歳を超えていますから、妻子持ちでも当然です」


「そうなのよ。だから、未婚のガリガリ貧弱系男子を探さないと。インテリ文官の生息地って、やっぱりお城かしら?あぁ、でも貴族じゃないと、いくらお金があったってお城へは行けないわ。しかも用件は「ガリガリを探したいんです」って、そんなことで通してもらえる気がしない」


「ご理解いただけていて、よかったです」


「もう!メリーも真剣に考えてよ。このままじゃ、最良でも細マッチョよ?」


「よいのでは?ご令嬢方にはとても人気がございますよ。今、お嬢様のお相手候補として名前が挙がっているザクウェル様なんて、細身に見える隠れ筋肉質な体型が堪らないと評判ですし」


アンジェリカの脳裏には、偽さわやかな笑顔で声をかけてきたイケメンの姿が浮かぶ。

けれど到底、その騎士と結婚する気にはなれなかった。


「嫌よ。細身に見えるなら細身のままでいて欲しいわ。今にも風で飛ばされそうな体型になってから、出直してもらって」


「またそんな無茶な……」


理想の王子様は一体どこにいるのか。

アンジェリカは、今日もまだ見ぬ王子様に想いを馳せた。

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