第8話  ロボット警官

 この理想的な時代でも、ホームレスになる者がいるということは、前の段で述べたが、今の時代とは違い、生活苦でホームレスになる者はいなかった。だからホームレスと言っても、小ざっぱりとした身なりをしていた。一見しただけでは、普通の旅行者と変わらない。


 ホテルはどこにでもあり、誰でも自由に泊まることができる。泊まらなくても体を洗うために短時間利用することもできる。そうなると部屋の掃除が忙しくなるが、従業員はロボットであるから、疲れることがない。散髪もロボットがしてくれる。ロボットは、人間に尽くすために作られ、それを最大の喜びとしている。だから何の遠慮もいらない。ロボットは、人間に尽くした分だけステータスが上がる仕組みとなっていた。ミシュランの星格付けのように。

 その格付けは電脳が決めることで、人間は上下関係を作らないために仕事を禁止されているのだが、ロボットはむしろ仕事をしないとスクラップにされる運命であった。

 ロボットが仕事をするというのは、じつは延命行為なのだ。


 マイナンバーカードを持っているユミリンは、あえて野宿をしなくてもホテルに泊まれば、何の不安もないし事件に遭遇することもない。しかし、ユミリンは天路歴程を自らに課した。


 また、エべレーターとホテルを使用しないことをユミリンは自分に誓ったが、それはユミリンが、ビルの頂上を、あたかもエベレストの頂上のように考えていたからだ。一歩一歩自分の足で登っていくことに意義があると。

 しかしそれだけではなく、ユミリンは公園などの人工芝の上に寝転がって、夜空を眺めるのが好きだった。そんな無防備なことを十代の少女ができるのかと今の時代の人間は思うが、西暦二千五百年には、人間も進化していた。酔っ払いや暴漢といった低級な人間は、電脳によって駆逐されていた。


 飲み屋そのものがなかったのは、アルコール飲料がないからである。かてて加えて、監視社会だから、異常な行動をする者は、すぐにロボット警官に逮捕された。

 

 ここでロボット警官について述べれば、ロボット警官は様々な形態をしている。一番多いのが円筒状で頭がドームになっているものだ。手というものがない。

 では、暴漢をどうやって捕まえるのかと言えば、電気ショックである。二つある目玉の中央から電気が飛び出すのだ。目の焦点があったところに電気がいくようになっている。だから、外れることはない。また、この電気もそれほど強いものではなく、仮に受けても一瞬体がしびれる程度である。

 暴漢が逃げた場合は、ロボット警官は、犬のように追いかける。足はないが、太い車輪が一輪ついていて、カーブの時もスタビライザーで倒れることはない。

 因みに目は後方にもあって、前後の区別はなく、大勢の人間を相手にする場合は別々の警官になった。人がしゃべったことは全部記憶していた。

 身長は、百四十センチで、これは子供に対して威圧感を与えないためである。しかし、背の高い大人に対しては、三十センチほど背が伸びる。円筒状の体形も誰かとぶつかった場合、相手にけがをさせないためであり、とにかく人間に対してこれほど気を遣うロボットはいない。決められた区域を常に巡回している。

 ロボット警官は、人間の言葉もしゃべれるが、ユミリンのような聾唖者には、胸の電子掲示板で伝達できる。


 公園などもよく見回りに来る。

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