第6話 季節

 雲に達するほどの大きなビルの中は、季節というものがなかった。いや、局部的に暑い地域と寒い地域があったが、そこは観光や遊びで訪れる特別な場所であった。

  一般の居住区は、温度が一定で暑くも寒くもない。労働がない彼らは、スポーツをしないかぎり汗をかくこともなかった。


 季節で言えば、暑い地域は夏を表現していた。ジャングルのようなところがあり、砂浜がある。そして、海のような大きなプールがあった。

 このプールは人工の波が作れる。だから、サーフィンをして楽しむ人もいた。真水で魚もいないのだが、砂浜での日光浴は紫外線のない極めて安全な日光浴と言えた。


 では、水に入って溺れる人はいないのか、と言えば、もちろん溺れる人はいる。しかし、最悪の事態にはめったにならない。なぜなら、ロボットの救助隊がいるからだ。


 監視ロボットが、高い場所から、常に赤外線で人間のいる位置を把握している。温度の比較的低い水の中では、人間はすぐに識別できた。さらに、溺れる者は似たり寄ったりの動きをするから、監視ロボットはそれを察知して、砂浜の近くで待機している救助船(ロケットの形をしている)に情報を伝達する。と、救助船が全速力で駆けつける。

 溺れる者は、その救助船につかまるのだが、しかし気を失っている者はそういうわけにはいかない。だが、この救助船には、特殊な装置があって、気を失っている者を側面から持ち上げることができた。ロケットの形をしている船だから、三本の棒が下に伸びて、くるっと回転するのだ。てこの原理である。そうして、溺れた人を渚の方に連れて戻る。


 寒い地域は、もちろん冬を表現している。ここでは雪が降り、スキーもできる。最も人気のある観光地であった。

 ただ、ここは普段着ではとても寒くていられない。入り口で防寒着に着替えなければならない。が、防寒着を持っている者はほとんどいない。

 それでも大丈夫。入り口に、電熱の特殊服を貸してくれる施設があるのだ。充電式で、電気毛布のように暖かい。


 因みにビルの中はすべて電気で動くシステムだから、いたるところに電気の取り込み口があった。


 ユミリンの愛犬ロビーも電気で動く。だから、電力が下がると、動きが鈍くなる。動きが完全に止まっても、電気を充電させれば復活する。電気がロビーの餌であり、餌を求めるかのように、ロビーは電力が少なくなると、横っ腹にある掲示板でユミリンにそれを知らせるのだった。

 また、この掲示板は、場内放送を同時に表示することもできた。それは耳の聞こえないユミリンのために特別にプログラムされた機能であった。

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