アイドル、逃げてみた
第36話 カスミトアケボノ
夜斗は夏恋が見つけた異変の座標を頼りに、街を歩いていた
その場所にあったのは、一つのコンテナだ
中には人がいるという
「またよく見つけたな、こんなの」
『わりとわかりやすく波紋が出てました。人間のもつ霊波は壁や距離は関係なく伝わりますから、周波数を限定すればこういうことにも使えます』
「…これ、開ける?」
『中にいるのは同年齢ほどの女性です。アイドルですね、話題の。昨日くらいに行方不明とニュースでやってましたし』
「まじか。見てなかったわ。って、鍵ついてるぞ」
『破壊しましょう。そこのホームセンターにバールが売ってます』
夜斗は言われるがままにホームセンターでバールを購入し、コンテナ前で構えた
「照準よし、角度よし。あれ使える?」
『ソードスキルですか。まぁ、再現できます。私がアシストするので、任意のソードスキルの構えをお願いします』
夜斗はバールを右手で持ち、右肩の後ろに位置させた
夏恋によって、自動で体が動いて見事、コンテナの鍵を復元不可能なレベルに破壊する
「やりすぎたな」
『ソードスキル自体が強いんですよ』
ソードスキルは、霊斗が好きなアニメに出てくるものだ
動作を読み取り、システムアシストにより自動で技を使う
VRが発達したこの世界だからこそやれるゲームであり、脳波を読み取ってゲーム内の体を動かせるのだ
「わりと体に来るな。つかカンヌキ外してやるか」
トレーラー用コンテナの閂を抜いて、ドアを開けると中では女の子が蹲っていた
「ということで、拾ってきた」
「捨て猫感覚で拾ってこないでください、お兄様」
「雪菜です、よろしくお願いします」
「まだ飼うって決めてません」
「私ペットじゃないです」
雪菜と名乗った彼女は、カーペットの上にちょこんと正座をして、紗奈と夜斗を見上げていた
「そもそもお兄様、この方はアイドルですよね?警察に届けなくていいんですか?」
「それがだな、事務所が追い出したらしいんだ。喧嘩して。で、住んでたのが寮だから…という」
「どこかで聞いたような話ですね。なら何故コンテナの中に?」
「誘拐されて、身代金を要求しようとしてましたね、犯人。けどなんか、調べたら思いっきり逮捕されてました。万引して」
夜斗はパソコンで何かを調べたあと、ため息をついてプリンターに移動した
プリンターは業務用のもので、100枚を1分かからず印刷できるスグレモノだ
「お前の事務所は誘拐事件として処理している。警察にも捜索願を提出し、メンバーたちも心配してると報じてるぞ」
印刷したものをホッチキス止めし、雪菜に投げ紗奈に手渡す
「私の扱い雑すぎやしませんか?まぁいーですけど。アイドルってのはそういうものですよ?事務所は自分たちに非がないっていう体で話しますし、メンバーたちは事務所に切られると生活がないから言うことを聞きますから」
「ふーん。俺が雇ってやってもいいけど?」
「…え?」
「私たち冬風は、江戸時代より以前から連なる神社の跡取りです。お兄様はその後継者であり、私は巫女頭の後継者です」
「…もしかしなくても、すごい人?」
「一応政府や警察、公安への繋がりがある。だから事務所をぶっ壊すこともできなくない」
夜斗は缶コーヒーを引き出しから3本取り出し、彼女らに渡した
またしても紗奈には手渡し、雪菜には投げ渡しだ
「やれるならやってほしいですけど…。あ、ブラック飲めないです」
「図々しい小娘だな…。ほらよ微糖」
「自販機ですかその机は」
夜斗はまた引き出しから微糖コーヒーを取り出して投げ渡した
「壊せるなら、壊して。私たちを助けてください」
「依頼として処理する。紗奈、各所に手配を頼む。翡翠を呼べ」
「はい、お兄様」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます