第34話 零と冥賀と職員会議

「そろそろ戻るか」



零は加熱時間が終了した機械をポケットにしまう冥賀に声をかけた

寄り掛かっていた壁がミシミシと音をたてたが、気にするそぶりはない

冥賀が立ち上がり、ドアに手をかけた。が



「開きませんね」


「鍵かけられたか?暇な教師がいるみたいだな」


「そのようですね。その暇を僕らに分けてほしいものです」



冥賀はそういってスマホを取り出し、ひとつのアプリを起動した

そのアプリにてアンロックとかかれた四角をタップすると、カチャという音とともにドアが開いた



「僕らが何も対策していないとでも思っているのでしょうか」


「まぁ、バカだからな」



二人は職員室に戻り、ギョッとしている校長に挨拶をして自分の席に着いた

まとめた書類が汚れているのを確認してそれを捨て、引き出しから同じものを取り出す



「カメラの動作も良好ですね。黒淵のサーバーへの保存も問題ないようです」


「こっちもだ。天血の共有記憶領域に保存は容易い」



またビクッと反応する校長を無視して、零は立ち上がり会議を始める旨を伝えた



「職員会議開始します。現時刻ヒトマルサンマルより録画及び録音を開始し、このデータを職員共有サーバーにて保管。独断での削除は業務妨害として天血の名のもとに訴訟します。以上」



零が司会を務めるのはいつも通りだ

このセリフもいつもと変わらない。異議を唱えればこの会議での発言権がなくなるために誰も何も言わない



「…じゃあ始めるぞ。本日の議題は学校祭についてと生徒会選挙について。まず学校祭から…。ああこれ俺のやつか」



零は書類を取り出し、全員にメールを確認するように促した



「えー、先日起きた本校生徒による強姦盗撮未遂事件ですが、これにより弥生高校の信用を欠く結果となりました。ついては本日0824に送信したメールをご参照ください」



そういいつつ零も自分で作った報告書を開き、読み上げる



「先週末、天血家および黒淵家の会食にて本校より11名が神奈川県伊勢原市にて宿泊した際、白鷺大貴による覗き行為および強姦未遂が行われようとしており、本校生徒冬風夜斗および弥生高校緋月霊斗により鎮圧・公安に引き渡しが行われました」



零は報告書のページをめくり、二枚目を読み上げる

冥賀は内容を知っているため、あくまで目を通しているだけだ



「その事件の直後、私宛に弥生高校よりメールが届きました。三枚目がそのメールを印刷したものになります」



零がそういい、大半のものがそれを見るために紙をめくった

数秒後、どよめきが起きる



「読み上げます。拝啓、天血零様。日頃は本校とのおつきあいをいただきまことにありがとうございます。先日、本校生徒である緋月霊斗が関わった貴校生徒による犯罪未遂について報告をいただきたい所存でございます。内容により、今後の付き合いを考えさせていただきたいと考えています」


「これは…」


「時を同じくして、剣道・柔道・弓道・サッカー・野球各連盟より通達がありました。これは僕にしかきていないようですが、要約するとどこの大会も出場を見合わせてほしいとのことです」



再度どよめきが起こり、静まるまでまつ零



「本件の報告のために校長・教頭・私・黒淵先生にて弥生高校を訪れた際、内容は割愛しますが、校長・教頭が先方の怒りを買い、辞任しなければ付き合いはなくすという方針に至りました」



零は淡々と語りながら校長と教頭をちらっと様子見した

冷や汗をかく教頭と、なぜかふんぞり返る校長

どちらも零にとっては滑稽なものであった



「今回のこの件により、理事長から中継が繋がっています」


『おはようございます。如月高校教員の皆さん。理事長です』



零がテレビをつけると同時に、零たちの雇用主とも言える理事長が職員に向けて挨拶をする

校長、教頭は媚を売る気満々というのが丸わかりな態度に変化した



『まずは零先生。本日はこのような場を設けてくれてありがとう』


「依頼はこなしますよ。雇われの身なんでね」


『相変わらずだな。冥賀さんも、今回の事態の収束に1役買ってくれたとか。ありがとう』


「僕は本校生徒を守ったに過ぎませんよ」



零と冥賀がぶっきらぼうに答えるのを見て、何故か勝利を革新した校長が勝ち誇った顔をする

それは、理事長の言葉ですぐに焦りに変わった



『弥生高校への誠意を表明するため、校長と教頭。君たちはクビだ、明日から来なくていい。というか来るな』


「なっ…、何故ですか理事長!」


『決まっている。君らは如月高校生徒の犯罪を容認し、その上で隠蔽しようとした。その結果、収入源の一つである学校祭を潰そうとしたんだからな』



理事長は淡々と語る

顔はいつも通り出ていないサウンドオンリー、しかもその音声も加工されたものだ



「新しい校長がいないと業務が進まない」



零が進言し、校長が思わぬ助け舟に目の色を変えた



「そ、そうですよ校長!私たちがいなくなっては業務が…!」


『ということだ、引き受けてくれるな?零』


「…チッ。授業はやっていいんだな?」


『自由にしろ。その校長教頭がやっていたことなど、零と冥賀にかかれば造作もない』



予想外の答えに口をパクパクさせる校長と教頭

理事長はただ、零と冥賀に言う



『賃金倍』


「承りました理事長様」


「…僕も引き受けましょう。零がやるというのならね」


「なっ…!ど、どういうことだ!」



校長が零に向けて怒鳴る



「メール読まなかったんですか?いやもう敬語の必要はないか。メールで送っただろ。あんたらの不正報告書」



校長と教頭は椅子にガタンと座り、パソコンを操作した

メールの下の方には、彼らの罪が連ねられていた

横領、暴力団との関係、恐喝、などなど。あらゆる罪を犯したかのような長さの文がある



「ど、どこでこれを…!」


「僕の従弟に、冬風夜斗というものがいます。彼は公安部の繋がりがあり、調査を依頼してありました。高い出費でしたが、思っていたより証拠があるでしょう?」


『犯罪者を雇えるほど我が校に余裕はない。自宅に解雇通知は郵送してあったはずだ、一月前に』


「な、何かの間違いだと思って…零先生のポストに入れ直しました」


「いや俺クビになるようなことしてねぇし」



職員会議が一転、晒しあげとなったこの場で、校長教頭の味方をするものはいなかった

それはそのはず。如月高校の生徒に性的暴行を働く写真があったためだ

今まで擁護してきた体育主任、養護教諭も校長教頭を蔑んだ目で見ている



「一応俺の方から県教委に報告してある。来年度には免許剥奪となる」


「なっ、なんてことをしてくれたんだ!」


「理事長、最後まで参加するのか?」


『無論だ。そのほうがいいだろう』


「そうだな。…そういや、夜斗のアレ真似してみたかったんだよなぁ」



零が楽しそうに笑い、指を鳴らす

職員室のドアを開けて入ってきたのは、黒服にサングラスをつけた男たち

襟元には桜のバッヂが煌めいている



「公安部特殊警察。彼らの所属だ」


「な、なんでこんなところに!」



今までだんまりだった教頭が悲痛の叫びを上げる

零は笑いながら、再度指を鳴らした



「さようなら、元校長。二度と会うことはあるまい」



零は自分の椅子を校長がいた場所に移動して、理事長が通話を切るのを待った



「もういいか?理事長」


『ああ。後ほど理事長に来てくれ。冥賀もな』


「了解です」



零はブツッと音を立てて切れた通信機の電源を切った

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