第33話 零と冥賀と日常会話
零は出勤するなりため息をついた
「どうしましたか、零」
「職員会議あるだろ?今から憂鬱でな…。まぁた小言を聞かなきゃならん」
「天血や黒淵は、普段バカにすることができませんからね。一般人に成り下がった僕らに敵意が向くのは致し方ありませんよ。その覚悟があって教員免許をとったんでしょうに」
「毎度毎度だと嫌になるぜ、って話さ。教員の仕事自体が嫌なわけじゃねぇよ」
校長や教頭から聞かされる愚痴にも似た悪口
それは澪や夜暮、夜斗にとどまらず唯利にも向いていた
白鷺を放置したことで箔が下がったことを根に持っているのだ
「ったく…対応しなかったのは自己責任だろうに…」
「まぁ、僕らも大人気なく実家の力を使いましたからね。というか、それが可能だと知りながら喧嘩を売るのはバカがやることです」
職員室には零と冥賀しかいない
当然だ、出勤時間の1時間前なのだから
「今日の議題なんだっけ?学祭のやつ?」
「それと生徒会長選挙の話です。各教師が推薦する必要があります」
「…今回は夜斗でいいや。冥賀はどうするんだ?」
「僕も同じです。他の者には任せられませんし、何なら零とて相手にしたくないでしょう?」
「まぁな。夜斗ならやりやすい」
零は生徒会業務を兼務している
そのため部活動顧問は免除されたものの、より面倒だと感じる今日この頃であった
「…生徒たちは今日休みか」
「我が校は職員会議のときは休ませますからね。毎月一度、無駄に休みがあります。おかげで授業スケジュールもある程度コントロールしなくてはなりませんが」
「そういやそろそろ中間テストか?今回どっちが担当だっけか」
「問題は僕です。採点はいつも通り、それぞれの担当クラスを行いましょうか」
「そうだな。剣道の方はどうよ」
「今回も問題なく県大会には出せるかと。全国は…厳しいかもしれませんね、僕に勝てる者がいないので」
冥賀は剣道有段者だ
そのため、顧問をしつつ監督を行いながら技術指導を行う
とことん無駄を削ぐプログラムのおかげで、毎年県大会に出すことができているため、学校長は冥賀を手放そうとしない
「一応生徒会の方も、弥生との連携で学祭やるから少しは外に出るけどなぁ。つか弥生の生徒会顧問が俺の親族だからコラボできてるって知らねぇのかなあの校長」
「まぁ知らないでしょうね。一度担当を変えて事件化したことさえ記憶できていないでしょう」
「…流石に覚えてるだろ。覚えてなきゃ無能もいいところだ」
零の従姉が生徒会顧問を務める弥生高校は、零たちがいる如月高校のイベントに何かと協力的だ
実は如月高校も弥生高校も夜斗の父と恋歌の父から出資してもらっている立場だが、それを知るのは零や冥賀を含む数人の教師だけ
校長さえ知らない事実だ
「…あーそうだ冥賀。澪にこれ渡しといてくれ」
そう言って零は冥賀の方を見ずに箱を投げた
特に飾りのないシンプルな化粧箱だ
「これは…?」
「むかーし俺が買った女物の時計だよ。使わねぇし、メンズと間違えただけだからあいつにくれてやろうと思ってな。ただ直接渡すのは気恥ずかしい」
「代行させられる僕の方が気恥ずかしいのですがね…。まぁいいでしょう、今日は零の奢りですね」
「マジか…。こちとら金欠なのに…」
「給料には大差ないでしょう。資産運用をするかしないかですよ」
「したって稼げねぇからな、俺だと」
「今度自動取引ツールを君にあげますよ。僕の自作なので、責任は負います」
「やったぜ。楽しみにしておこう」
「ちなみに作動OSはスマホのものです」
「無駄に高い能力だな…」
零は書類をまとめて缶コーヒーを開けた
冥賀も同じように缶コーヒーを開け、立ち上がった零の後ろからついていく
「…煙草は程々に」
「つっても喫煙者ってのは禁煙できねぇもんだ。医者の息子が言っていいのか知らんけど」
「医者の息子だからこそ、わかるのかもしれませんね」
喫煙所とは名ばかりの小屋に着いた二人
零は壁にもたれて、冥賀は用意されていたパイプ椅子に座る
零が煙草を取り出し火をつけ、冥賀は話題の加熱式タバコを起動した
「…お前も吸ってんじゃん」
「時代が時代ですからね。僕らの同級生で吸わない人のほうが稀では?」
「どっちかというと吸わねぇ世代だろ俺らは…」
「さて…。一応君にも伝えておきます。白鷺のことですが、来週から通学を再開することになりました。ただ、一族の監視がつきます」
「ほう。思っていたより軽い罰だな」
「そうでもないですよ。卒業後は、一族指定の工場で睡眠時間以外働かせるらしいので。まぁ、一族が肩代わりした慰謝料の返済ですね。無賃金ではありませんが、金額が金額だけに給料は全て注ぎ込まざるを得ないかと。夜斗、紗奈、澪、夜暮に払わなくてはなりませんから」
「いくらになったんだか知ってるのか?」
「夜斗に500,紗奈に100、澪と夜暮はそれぞれ250です」
「やけに夜斗多いな」
「一応自体の収束を担当していましたからね。一番危険な立ち位置でしたし、僕の証言で急に不利になったようです」
「何言ったんだ?」
「妹や有人を襲われそうになり心を病んだところに本人がナイフを向けてきたため迎撃したものの撃退に留まり、根本的な解決とならなかったことを気に病んでいた。です」
「精神的な証言っつーことか」
零は吸い殻を灰皿に入れ、換気用の窓から外を見る
「この学校も変わったな」
「そうですね。腐敗した上層部に、それに従う下等な教師。それに気づかない無力な生徒。僕らの時代では考えられません」
冥賀と零は過去、この学校で生徒会をしていた
その際、当時の学校長や理事長と大いに揉めたものの、それ以来は今でも飲みに行く仲である
「そういや、藤田が今週末飲みに行こうって言ってたぜ」
「…先週行ったような…」
「お前も参加な」
零は笑ってそういった
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