第31話 放課後

アイリスの家に呼ばれた夜斗は、隣の市の駅に来ていた

あとから迎えが来る、と聞いているのだが一向にこない



「こんにちは」


「…貴方は?」


晴香はるかと言います。今日はいい天気ですね」


「そうですね」



夜斗は話しかけてきた女性に目を向けてすぐに目を離した

その瞬間、晴香がナイフを夜斗に突きつける



「動かないで。殺すのは好きじゃない」


「…なんなんだ最近の事件の連鎖…。ここまでくると誰かに仕組まれてんのか」


「何言ってるかわからないけど、ついてきて」


「人を待ってるから無理だ」


「そんなに死にたい?」



突きつけられたナイフの圧力が増す

正直夜斗はここから状況を一転させるだけの技術があるのだが、何もせずにいた



「…何もしないほうが面倒だな」



夜斗は目の前にいた晴香の視界から消えた

ただ重力に身を任せて前のめりに姿勢を落とし、そのまま地面を蹴って晴香の背後に移動しただけだ



「消え…!?」


「動くな。ことを荒立てる気はない。動機だけ聞いたら開放してやろう」



夜斗の手には、一昨日白鷺に使ったスタンロッドが握られていた

いつでも使えるようにカバンに入れてあったものを、背後に移動するまでの間に取り出したのだ



「…なん…!」


「早くしろ。俺は優しくはない」


「…妹のため。今の彼女と別れないと、後悔するよ」


「…は?」


「私は桜嶺晴香。唯利の姉」



晴香はそう自己紹介し、距離をとった

夜斗はスタンロッドをしまい、晴香の背後から迫る人影に目を向けた



「よう、唯利」


「…二時間ぶり。なんでここにいるの、お姉ちゃん」


「…!唯利!?」


「エマージェンシーコール。アイリスが開発した思考制御型防犯設備でな、それを使うと任意の宛先にメールを送れる。それで唯利を呼んだ」


「私、今このへんに住んでるから。で、お姉ちゃんは夜斗に何をしたの?」



唯利がいつものパーカーを着て立っていた

ただし下は制服ではなく、よく売られているようなスカートにニーソックスだ



「余計なことしないで。私は私のやり方で、夜斗と付き合いを重ねる。お姉ちゃんが壊したら、私は今度こそ首を吊るから」



唯利はそう言い残して夜の街に消えていった

夜斗もここにとどまる理由はないため、車から顔を出して手をふるアイリスのもとに向かっていった






「いらっしゃい夜斗」


「邪魔するぞ。ってなんか靴多いな」


「風華の集まりだからね。夜斗を紹介するの」


「早いなぁ!?」



夜斗は用意されていた服に着替えさせられ、応接間のような場所に通された



「君が冬風夜斗…。なんと若い…」


「一応アイリスさんと同い年ですので。冬風夜斗と申します。恩来神社の跡取りです」



夜斗は礼をしてから部屋に入った



「紹介するよ。私の彼氏でもありバイト仲間でもあるの。これで少しは満足した?風華を継ぐ気はないよ」


「風華を…継ぐ…?」


「風華は時雨桜一族と似たようなことをしてるの。ただこっちは公的機関じゃなくて、普通の会社として業務をしてる」


アイリスの話を聞きつつ、呼ばれた理由を感じ取った

要するに、アイリスはあとを継がさせられる直前だった、ということだ



「…そういうことなら仕方ない」


「アイリーンもだめだからね。アイリーンはまだ中学生だし、旦那を取る歳じゃない。やるなら養子を迎える方が現実的だよ?」



アイリスの冷たい目が大人の男たちを睨む

いや、睨むというよりはただ冷ややかに見ているだけだ



「…我々の負けだ。少し考えよう。解散だ」



男たちは席を立ち、玄関に向かっていった

アイリスは全員が出てドアが閉まったあと、舌を出して小馬鹿にした



「あんなだから嫌われるんだよ、政府に。ごめんね巻き込んで」


「構わん。慣れてる」


「そういえば夜斗も話あるんだよね?」


「ああ。親父がまた忘れてて、見合いをさせられることになった。が、アイリス以外になびく気はないから丁重に断ってくる」


「一夫多妻制が導入されそうだし大丈夫じゃない?私への愛が一番ならそれでいいもん」


「一夫多妻制になっても俺は一人しか愛さない。それが道理だ」



夜斗はそういって笑い、その後は他愛のない話で一夜を過ごした

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