第30話 冬風家

夜斗自宅。父、頼政に呼ばれた夜斗は長い廊下を歩いていた

夜間にくる参拝客のために配置された当直の巫女が、夜斗に挨拶をしながらすれ違う



(…なんで呼ばれたんだ?)


『不明です。アカシックレコードに潜ればわかると思いますが、調べ終わるより到着が早いかと』


(それもそうか)



襖をあけると、革製の座椅子に座った父が夜斗を見ていた



「なんのようだ、親父」


「…とても言いにくいことだ。戸を閉めろ」



夜斗は言われるままに襖をしめてあぐらをかいて父を見た



「恋人ができたようだな」


「なんで知ってんだよ…。そのとおりだ」


「そんな身のお前に、縁談…というより見合いがある」


「何故ぇ!?」


「…怒るなよ?」


「…何したんだ」


「約束を忘れてた」


「ぶった斬るぞクソ親父!!」



夜斗は肩を震わせながら笑顔を浮かべた

本気で怒ってるときの癖だ



「ま、まぁそう怒るな。断ってもいいが、会ってほしい。恋人ができたからなかったことにしろと伝えたにも関わらず、会うだけ会ってほしいとまで言われてしまってな」


「…仕方ない。相手の名前とその見合いの日だけ聞いておこう」


「名前は櫻坂さくらざか琴葉ことは。日取りは…確か明々後日だ。学校は休め、零に連絡してある」


「こういうときだけ手際いいな!」



夜斗は父の部屋を出て自室に戻り、携帯電話で時雨に電話をかけた



『私だ』


「ああ、俺だけど。櫻坂琴葉っつー女の子を調べてほしい。至急書面で頼む」


『調べるも何も、時雨桜一族の臣下だが?発足当時から櫻坂家は我が家に仕える一家でな、そこの分家に至るまで全て臣下だ』


「できれば事細かに調べてほしい。経歴から趣味から男性の好みまで」


『…ふむ。了解した、一日待て。ただ、書面でやるにしても発送では間に合わんぞ?』


「電子書面でいい。印刷はこっちでやる」


『よかろう。では私の方も、霊斗の情報をもらおうか。なに、依頼料だと思え』


「わかった。なる早で頼む」



霊斗のプライバシーはどこへやら、密約を交わす二人だった






翌日昼休み



(…?お、もう調査結果きたのか。んじゃあ俺も天音ちゃんや桃香から聞き出した情報をまとめたやつ送っとこう)



尚、二人には商品券2万円分をそれぞれに渡してある

夜斗はメールで送信したあと、送られてきた資料に目を通していた



(ふむ…。櫻坂家長女。従兄に…桜坂久遠?まさか、りんきゅうと喧嘩したあいつか…?いやそんなわけないか。んで従妹が舞莉…。兄が櫻坂叢雲むらくも…。どれも聞いたことのない名前だな)


『強いて言うなら、りんきゅうと喧嘩した人物と丸かぶりしている従兄さんだけですね。調べますか?』


(一応頼む。つか時雨に頼まずに夏恋に頼めば良かったな)


『まぁ言い訳は必要ですよ。いざとなれば、時雨さんから聞いたって逃げられますからね、今回の場合』


(なるほどな)



夜斗は電子書面のページを捲っていき、趣味や趣向の情報が記載されているページを見つけた



(趣味が…ない…?どういうことだ?)


『可能性としてあり得るのは、琴葉さんが虐待やいじめにあっていた可能性です。感情を失えば、趣味なんてなくなりますから』


(確かに…。年齢16歳で、見ず知らずの俺と婚約させられそうになってるあたり、結構人生やめてるのかもしれん)



夜斗は予鐘によって意識を戻し、屋上の貯水タンクから飛び降りた

破壊した屋上ドアを、元のように戻して教室に戻る



(少しだけ、嫌な予感がするな。…対策を練るしかなさそうだ)



夜斗はため息混じりにそんなことを考えていた

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