第29話 デート終わり

「やー、遊んだ遊んだ」


「思ったより…元気あるな、お前…」



夜斗は公園で膝に手をつき荒い息を吐く

この公園は、昨日時雨や夜美と密会した場所だ



「私の取り柄といったらこれしかないからね。あとは、日本人離れした髪と目かな?」


「確かに、それは、綺麗だけど…。ちょい、休ませて…」


「体力ないなぁ…」



時刻は18時半。19時には冥賀の運転で静岡に帰ることになっているため、本当にギリギリだ

夜斗はベンチに腰を下ろし、アイリスが隣に座る



「ふぅ……。バイトでもそれくらい元気があるといいんだがな」


「それは無理だよ。私が元気出すには条件があるの」


「条件?」


「そ。それが達成できないとちょっと厳しいかなぁ」



夜斗は腕時計についているカメラで前方の風景を撮影した

心地よい風が草木を撫で、自然の音を夜斗とアイリスに届ける


ちなみに唯利と刼華は、夜斗たちが座るベンチの真後ろにある茂みの影に隠れていた



「うん。こういう機会があってよかったよ」


「そうか。まぁタダ飯だしな」


「そうじゃなくて、夜斗と二人きりになれる時間…的な?」


「より良い時間の過ごし方はあるだろうに」


「そんなことないよー?」



アイリスは立ち上がり、夜斗に背を向けながら空を見上げた

月が目に入り、星々がキラキラと輝く中で、アイリスは夜斗を肩越しに見る



「全く…。夜暮の親父にはキツく言っとかないとな。あと俺の親父にも」


「それはちょっと擁護できないね…。人が人なら本気で怒ると思うよ」


「…さて、ホテルに戻るか。荷物を取りに行かねばならん」


「そーだね。けどその前に」



立ち上がる夜斗の唇に、長めにキスするアイリス

フリーズする夜斗…と刼華と唯利

そんな夜斗からアイリスは距離をとった。夜斗から近寄ってくれることを願って



「こんなにアピールして気づかないなら、言うしかないじゃん?」


「…これがお前の、覚悟か」


「そーだよ。夜斗、私は夜斗を好き。誰が何て言ったとしても、私は夜斗を愛するだけの覚悟があるの。それは誰にも負けないって自負してるし、今のところ負けてない」



アイリスは真剣な目で夜斗を見る

ベンチの裏に隠れている二人への宣戦布告をかねた、大胆な告白だ



「…俺が神社の跡継ぎなのにか?」


「そんなの関係ないよ。生まれなんて選べない。人が選べるのは、もらった命をどう使って、どれだけ楽しんで、どれだけ人を愛するか。そして、その人とどんな幸せを築くか。それだけなの」


「…どうやら、俺が思っていた以上に、お前は強いようだな」



夜斗はほぼゼロ距離までアイリスに近づいた



「…すぐには答えられない」


「……」


「とでも言うと思ったか。受けるさ、女に先に言わせたのは少々問題だがな」



夜斗は笑いながら言った

アイリスは目の端に涙を光らせながら、夜斗に抱きつく

アイリスは今まで、夜斗に抱きつくことはしなかった

それどころか、夜斗に直接触ることさえしてこなかった

それはひとえに、夜斗に嫌われることを危惧したからだ



「もう、遠慮しないから」


「受け止め…きれるかしらんが、努力しよう」



夜斗はアイリスを抱きしめ返した




刼華と唯利は、足取り重くホテルへと戻った

荷物を取りまとめ、刼華は零が運転する車へ

唯利は冥賀が運転する車へ移動し、荷物を積み込む



「どうしたの、刼華」


「……やーくん、アイリスさんと付き合うことになった」


「そう」



多くは語らないのが美羽の良いところでもあり悪いところでもある

窓を開けて肘をつき、手に顔を乗せて外を見る美羽を、刼華は横目で見た



「…刼華」


「何…?」


「私には恋愛感情がないから、失恋の痛みはわからない。けど、だからといって刼華を見捨てるほど冷徹でもない」


「…どういうこと?」


「私は黒淵家に、冬風夜斗を紹介された。だからあれだけ熱心に籠絡しようとしてたんだけど、ガードが固すぎる」


「…そうだったんだ」


「だから、手段を変える。私の父親は、とある会社の経営者。だから冬風夜斗を呼んでパーティーを開くくらいならできる」


「…そこで、やーくんを落とせってこと?」


「できるとは思ってない。ただ、何もせずに泣き寝入りするよりはいいと思うけど?」



美羽はこの間、一切刼華を見ていない

涙を流すなら見ないでおく、という意味だ



「…考え、させて」


「わかった。覚悟決まったら教えて」



美羽はその姿勢のまま目を閉じ、眠りについた

仮眠を取るだけのため、意識は半覚醒状態。名前を呼ばれれば起きれる程度だ



「…ありがと」



美羽は聞かなかったことにして答えなかったが、口端を少し上げた

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