第28話 午後一番

午後に突入し、夜斗は神社勤務の巫女たちに土産を選んでいた

アイリスは家族…とは言っても別居しているが、一応土産を買おうということにしたのだった



「アイリス、決まったか?」


「んー…。神奈川県っぽい土産がわかんないんだよね。シャチホコとか?」


「名古屋だろそれ」


「じゃあ江戸切子」


「東京だな。思いっきり江戸って言ってるじゃねぇか」


「しゅうまいなら神奈川県だよね?中華街とか」


「ああ、多分そうだな。それにしてやれ」



夜斗は夜斗でカゴに洋菓子を入れてあり、アイリスが手にとったしゅうまいを横からとってカゴにいれる



「え…?」


「払ってやる。ちと白鷺の件で迷惑かけたからな」


「けどそれって、時雨桜と警察が手際悪いからでしょ?」


「両方から金もらったから、詫びだと思って受け取れ」



夜斗はそういってレジに向かっていった

アイリスはそんな夜斗の後ろ姿を眺めた後、追いかける



「お人好しだよね、夜斗って」


「そうか?」


「そうだよ。魔族助けちゃうくらい」


「別の世界線の話は出すな」



会計を終えた二人は、土産物屋を出てすぐのところにある休憩所で腰を下ろした



「ありがとね、夜斗。わがままに付き合ってくれて」


「今更すぎるな。そういえば、明日お前呼び出されてるんだってな」


「んー、それが…。なんか当初の予定がキャンセルになって、ただ風華家の集まりになったらしいんだよね」


(夏恋、調べてくれ)


『検索結果を報告します。白鷺大貴との見合いがキャンセルされ、それを誤魔化すための会食です』


(…なるほど、警察に媚を売るためか)


『はい。風華は警察に取り入るのが得意でしたが、それにより今回軽く叩かれます』


「どしたの、夜斗」


「うんや、なんでも。会食ってのはお前ら家族しかいないんだろ?」



アイリスが考え込むように腕を組んで、うーんと唸り声をあげる



「微妙かな。妹の友だちくるし」


「そうなのか。じゃあ佐久間連れてってみればええやん」



夜斗の発言は、佐久間が情報屋だと知っての言葉だった

冬風でさえあまり知らない風華の事情を知るいい機会だと考えたのだ



「それいいかもね。佐久間がシフトなければ全然」


「ないだろうな。あいつ基本的にお前と被らんやん」


「あのバイトリーダーと働きたいって人がいないからね。私が入らなかったら月曜日だけバイトいなくなるじゃん?」


「違いない」



夜斗は笑って、かばんから飲み物を取り出した





一方、その頃の時雨は



「全く…呑気なものだな、夜斗は」


「時雨様〜。いるじゃん。しょう舞莉まりの目が覚めたよ」


「何…!案内しろ、久遠くおん



女子のような格好をした久遠が、男勝りな口調の時雨に話しかけるという光景は、シュールさを感じさせる

と、周囲にいる黒服の男たちは思っていたが、言うことはない



「昏睡から早2ヶ月経ったけど、あのときのこと覚えてるかな?」


「ふむ…。可能性としては、これまでの記憶を失っている可能性すらありうる。頭を強打しているからな」



時雨と久遠は早歩きで、同じ建屋の端から端へと移動する

そこにいたのは、久遠の妹である舞莉とその婚約者である翔

二人は警察との衝突の際、警察が使用した装甲車に撥ねられてしまった

頭を強く打ち、昏睡していたのが2ヶ月経った今目が覚めたのだ



「神楽坂!桜坂妹!」


「あぁ…?この騒がしさは、時雨様か」


「おはようございます、時雨様」


「貴様らは…。無事で良かった…」


時雨は安堵から、体の力を抜いてしまい座り込む

祖父の祖父の代から、久遠と翔の家系は時雨の部下だ

過去にはマフィアのような扱いだったものの、時雨に代替わりしてすぐ公務員となった

しかしそれをよく思わない警察との衝突が相次ぎ、このような事態を引き起こすことも間々ある



「時雨様は心配しすぎだ。俺と莉琉りるは丈夫だからな、撥ねられて崖から落ちても死にはしない」


「桜坂の回復力は人間を超えておりますので、私や兄様が死ぬこともそうありません」


「そういう問題ではない!何故あのとき飛び出したのだ!」


「……聞いてないのか。そして話しておけよ、久遠」


「ごめんねー。時雨様、報告するよ。あのとき、冬風がすぐそこまで来てたの。武装巫女はいくら私含む一族でも対応が難しい。って話をしたら翔が、なら一時撤退だーとかいって飛び込んだんだよ」


「武装巫女、だと…?冬風はそこまでの権限を持つのか」


「多分時雨様なら気づいてるわよね?」



襖を開けて姿を現したのは、久遠の婚約者であり翔の妹である莉琉だ

神楽坂家の翔と莉琉は体が物理的に丈夫であり、翔の言うとおり事故でも死ぬことはまずない

桜坂家の久遠と舞莉は、並外れた回復力で、骨折程度であれば三日で回復する

とても人間とは思えない家系の末裔なのだ



「…夜斗が公安の味方ではない、ということにか」


「そうよ。冬風は誰にもつかずにきたけれど、今度の警視総監が変わったときにそれは終わったの。警視総監は冬風の親族だから」


「まぁ私達もそれを織り込んで考えてはいるけどね…」



久遠と莉琉は苦笑いしつつ、翔と舞莉を見た



「二人は休んでなさい。私と久遠で冬風と話し合いをしてくるわ」


「けど…お前らで大丈夫か?」


「「どういう意味?」」



久遠と莉琉の怖い笑顔に言葉が出なくなる翔であった

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