第26話 二人は一人
午前九時。夜斗は指定された駅に到着した
紗奈から、アイリスが今出発したと連絡が入り、夜斗はため息をついた
「早すぎたか…。まぁいい、あんなところに時間を潰すのに適したカフェがある。そこで時間を潰すことにしよう」
夜斗は説明口調でつぶやき、駅の目の前にあるカフェへと歩をすすめた
「…一応見ておくか」
時雨が霊斗経由で渡してきた端末のデータを詳しく見ようと、夜斗は端末を取り出し起動する
声紋認証を使うと怪しまれるため、静脈認証でセキュリティを通して中を見る
「えーと、りんきゅうの裏のつながり…?背景にあるのは、白鷺大貴と同じ組織と思われる…つまるところ、敵対者は夜斗かその周りの誰か、もしくは両方に殺意を抱いている可能性がある…か」
夜斗はそこまで読んで、届いたコーヒーを飲んだ
そしてゆっくり目を閉じ、端末の上に手を置く
『仮想空間構築。データの閲覧モードを網膜投影に変更』
(他は特に目立った事項はない…。こともないな。りんきゅうと白鷺大貴は同一人物の可能性がある。または白鷺大貴の兄がりんきゅうである可能性も否定できない。暫定的に三人とするが、奴ら三人を特別重要監視対象切り替えて対応していた…)
夜斗は眼球の動きで次のページへと進んだ
(冬風夜斗、緋月霊斗による白鷺兄弟捕獲後には急にりんきゅうが活動を停止。依然消息不明。このことから、どちらかがりんきゅうである可能性は大いに高い。後ほど報告を回す)
データの最後に至ったため、夜斗は端末の電源を落とすために目を開いた
窓の外に、ナンパをされるアイリスを確認して店を出る
「遅かったな、アイリス」
「あっ夜斗。遅いのは夜斗だよね!?」
「何を言っている。ずっとあのカフェから見ていた」
「助けてよ!」
「というわけで、俺の連れに用があるなら少しくらい相手をしよう」
夜斗が威圧をかけながらアイリス周囲の男たちに声をかける
すると
「あああ新しい警視総監の親族!?」
「なんでこんなところに!」
「えー…。まぁいいや、警視総監にチクって適当な罪で捕まえてもらおうか」
「「すんませんしたぁ!」」
走り去る男たちにべー、と舌を出すアイリス
「で、今日はどこに行くんだ?」
「何事もなかったかのように…。今日はショッピングモールだよ。服を選んでもらいたくてさ」
「やっぱりホットパンツとやらはお気に召さないか」
「なんか嫌なんだよねー。ニーハイが似合うけど、上は結構明るめの色にしなきゃいけないし、髪が亜麻色だから白しかないかなぁって」
「たまには悪くないだろ。可愛いと思うぞ」
「じゃあプライベートで夜斗と会うとき用のホットパンツを買おう!」
「手のひらクルックルだなお前」
夜斗はアイリスに手を引かれるままにあるき出した
そしてそんな二人を尾行する影が二つ
そう、唯利と刼華である
美羽は澪に捕まってどこかへ連れ去られたため非同行だ
「夜斗先輩、なんであの人とデートしてるの?私は?」
「私が聞きたい。なんでクラスメイトじゃなくてバイト仲間を誘うの」
「でなんで貴方がいるの」
「こっちのセリフ。何故ここにいる?」
「夜斗先輩が好きだから。あ、おいてかれる」
あっさり言い切った刼華に驚きつつ、夜斗が入っていったショッピングモールへと足を踏み入れた唯利
駅から徒歩5分。テナント200超えという超大型のショッピングモールだ
「アイリス、後ろ二人ついてきてるぞ」
「気づいてるよん。どうする?」
「お前の好きにしな」
アイリスは夜斗の言葉が終わるか終わらないかのあたりで、夜斗の手を握った
いわゆる恋人つなぎというやつだ
「少し、嫉妬させちゃおっかな」
「嫉妬するようなことか?これ」
「…夜斗は一回焼却炉で耐久レースしたほうがいいよ」
「秒で溶けるわ」
夜斗は連れて行かれた服屋の中で、試着室に入ったアイリスを待っていた
「眠いし…暑いし…溶けるし…」
「彼女さんのお洋服をお探しですか?」
「あー、大丈夫です」
「今はこの色がトレンドでして!あとこんな服もありますよ」
「グイグイくるなぁ」
夜斗はため息をして、この店員の相手をする覚悟を決めるのだった
それから数分後、アイリスはカーテンを開き、夜斗を目で探した
「あ、夜斗ー。こんなのどう?」
「ああ可愛いと思うぞ。ちなみに今後これ以外言う予定がないぞ」
「なんで!?」
「アイリスならなんでも似合うからな。着物でもスカートでもワンピースでも」
「そ、そうかな…。でも着物きたことないよ?」
「脳内イメージ」
夜斗はそういって、店員に渡された流行とやらをアイリスに渡した
「流行らしい」
「うん、知ってるよ。よくわかんないけど、チェックスカートが高校生の制服みたいで可愛いんだって」
「俺ら現役の高校生だな」
「まぁ着てみよっかな」
再度カーテンの奥に隠れるアイリス
夜斗はこの時間を楽しんでいた
とはいえ、楽しめていないものもいる
「……」「……」
刼華と唯利である
「…あそこまで仲いい人、中学時代にはいなかったはずなのに。なんなら群れることを恐れてたはず…」
「そうなの?確かに私と奏音くらいしか夜斗に話しかけるクラスメイトいないけど」
「相変わらず、って感じ。やーくんらしいけど」
「…やーくん?」
「……あ、夜斗先輩がこっちくる」
「待ってその呼び名は放置できない」
咄嗟に近くの店に入る二人
「…でこのあとの予定は?」
「このあとはお昼まで何も立ててない!行き当たりばったりも私たちらしくて面白いでしょ?」
「それもそうか。であれば、スマホケースでも買うか。むき出しだからな、俺」
「そういえば生身だね…。今までなんで買ってなかったの?」
「なんかめんどくさくてな」
刼華と唯利の横を通り過ぎる夜斗たち
スマホケース専門店に入った夜斗とアイリスは、夜斗がもつ機種がまとめられた区画で足を止めた
「こんなのよくない?可愛いよ?」
「男が持つにはピンクすぎるかな。つか思いっきりハートマーク入っとるがな」
「じゃあこれは?真っ黒」
「本当にただ真っ黒だな。設計者名乗り出ろ」
「んー…クリアケース?」
「そこに好きな人の写真でも入れろってか?事件化するわ」
「それは確かに事件化するかも…」
アイリスはそういって、楽しそうに夜斗のスマホケースを選んでいた
「あ、じゃあさ夜斗!」
「ん?ってどこいくねん」
アイリスはその区画から一つ、別の区画からもう一つのスマホケースを持ってきて夜斗に見せた
「ペアとかどう?ペアネックレスならぬペアスマホケース!」
「ふむ。それも良さそうだな。そうしよう。なに、金は出してやる」
夜斗はそう言ってデビットカードを取り出し、アイリスがもつ2つのスマホケースをとってレジに移動した
「別に私のはいいよ?私もバイトしてるし」
「昨日もらった逮捕協力金が有り余ってるからな。公安と警察合わせて50万。相当警戒してたんだろうな」
「じゃあお言葉に甘えよっかな」
「そういう潔いところ好きだぞ」
夜斗は笑いながら会計を済ませ、アイリスに片方を手渡した
二人はポケットからスマホを取り出し、夜斗はケースをつけてアイリスは付け替える
「おそろとは別だけど、これでいつも一緒だね!」
「そうだな。まさかアイリスがこういうのを求めるなんてなぁ」
「夜斗だけだよ?私とペアなんちゃらしてるの」
「それは僥倖だな。お前は俺の機嫌のとり方がわかってるらしい」
二人はスマホをポケットに戻し、またあるき出した
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