第21話 刼華

「性懲りもなく、よくやるね、君」

「なん…で…!」

「私、好きな夢を見れるの。たまに痴漢やこういう強姦?に対応する訓練も、夢でやってる」

刼華が白鷺を拘束していた

白鷺は下着しか着用していない。それから見れば、刼華を襲おうとしたことは夜斗と夏恋にも理解できた

「ワイヤー術もそこそこ訓練してるから、君くらいなら縛れるよ。夜斗先輩は多分無理だけどね」

「刼華…これは?」

「あ、夜斗先輩…。乙女の秘密見ちゃったね」

刼華はほほえみながら言った

刼華の手に握られたスティック状のものから伸びるワイヤーが白鷺を縛っている

そのワイヤーの締付けが増したのか、白鷺が苦悶の声を上げた

「私が作った、ワイヤードランスっていう武器。これは本来、先端に刃物をつける想定なんだけどね」

「これだけの戦闘術を…独力で…」

「意外と身近にいましたね。主様」

「そうだな…」

その時、物陰から人が飛び出し刼華を羽交い締めにした

刼華はスティックを取り落とし、それにより白鷺の拘束が解ける

「…冬風夜斗、そこで見ていろ。大切な後輩が、俺たちに傷物にされるのをなぁ!」

ほとんど同じ顔をしているせいで、どちらが白鷺大貴でどちらが兄なのか、夜斗には見分けがつかない

「…ほう。それだけの度胸があるとは想定外だ」

夜斗はそう言いつつ、夏恋を下がらせた

物陰に移動し、夜斗の中に戻る夏恋

「…その女を守ったか。被害を減らそう、ってか?」

声質は異なるようで、こちらは兄の方であることがわかった

しかし、夜斗はそんなことを気にしているわけではない

「…まぁ、どっちも殺せばいいだけの話か。あんま得意じゃないんだけどな」

「夜斗先輩、待って。それは、だめ」

「うるせぇ黙ってろ!冬風夜斗、お前が動いた瞬間に俺はこの子を連れ去る。それだけの用意があるからな!」

「うるさいのはお前だ。というより、この状況でどう連れ去るつもりだ?」

路地裏の出口には、夜暮が桜音に命じて配置させた装甲車が道を塞いでいる

そして両脇のビルの二階窓からは、冥賀と零が見下ろしていた

「よう白鷺。学校外で会うのは初めてか?」

「そこまで干渉したくありませんから。わざわざ観察処分者にプライベートで会う教師はバカですよ」

「完璧な布陣だろ?呼んですぐくるからな、この二人は」

夜斗はそう言って、スタンロッドを抜いた

「だっ、誰か一人が動いたらこの子を殺すぞ!?」

「それは不可能だ。なんでかって?」

夜斗は白鷺たちの後ろに目を向けた

「緋月霊斗が来たからな」

刼華を羽交い締めにしている白鷺兄を、銃のグリップで殴る霊斗

あまりの痛みに刼華を離し、そのすきに刼華は夜斗の後ろにまで逃げた

「長かった。実に長かった。白鷺の子息が俺と同じ学校だと聞いてから、数日でそれなりの準備をしていた。今回の騒動も、想定されていた。何度も脱走されるとは思わなかったけどな」

夜斗の雰囲気が変わる

それと同時に、刼華と零、冥賀が後ろを向いて目を逸らす

「だからこれは俺からの礼儀だと思え。起きろ、壊都」

夜斗はスタンロッドの電源を入れ、ゆっくりと二人に近づいていく

警戒してか、後退りするも装甲車を背に袋のネズミとなる二人

「俺はな、お前らみたいなのが大嫌いだ。自身の快楽のために他者を貶め、泣かせ、挙げ句殺そうとする奴らなんか雑魚に決まってる」

夜斗が一歩踏み込むと、二人は2歩下がる

そして装甲車にぶつかり、逃げ場をなくした

「俺の大切な友人を泣かせようとしたんだ、死ぬ覚悟はあるだろ?」

夜斗は居合いのような構えを取り、二人に狙いを定めた

白鷺弟が付近にあった石を拾って投げるが、霊斗の狙撃により軌道を変えられて当たらない

次の石を手にとったとき、全てが終わった

夜斗によって振りぬかれたスタンロッドが、弟の方に当たった

当たった瞬間に悲鳴を上げる弟の身を案じ、体に触れる兄

電気は水分を媒介に伝わるものだ。そして人間の体は大半が水

触れれば二人共に感電するのは当たり前だ。それを失念するほど、兄は行動を焦ってしまったのだ

「…終わったな、夜斗」

「長かった。黒幕がもう一人いるけど、二人拘束すれば問題ない。それにじき捕まる」

「もう一人…?」

零の声に静かに頷く夜斗

霊斗は上に向けて銃を撃った

射出された弾丸が、上空にいたドローンを撃ち落とし、墜落させる

「これは…!」

「白鷺の親父は、息子に女を襲わせ、それを撮影したものを裏サイトで売りさばいていた。こんなんでも見た目は割といいからな、ころっと騙される女はいたんじゃねぇか?」

そのドローンには撮影用のカメラがついていた

昨今導入された、警察用の無人捜査機であり、これは警察に向けてのみ販売されているもの

「夜斗先輩、逮捕されたみたいだよ。ニュースになってる」

「なら、完全に終わったな」

夜斗はスタンロッドの電源を切り、ホルスターに戻した

霊斗も銃にセフティをかけ、ホルスターに戻す。

そしてやってきた時雨桜一族に白鷺たちを引き渡し、逃さないよう厳命した

「…パーティーに戻ろう。冥賀、零。お前らは主役に近いんだから、早めに戻ってやれ」

夜斗はそう言って霊斗、刼華を連れて路地裏を後にした

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