第20話 パーティータイム
パーティーが始まる5分前。夜斗たちは会場に入った
疲れ切った顔の夜暮と澪が出迎えている
「よう夜暮、無事か?」
「断言はできないな…。サンキューな、巫女さん呼んでくれて」
夜暮と澪はその場を離れ、主役用の席へと向かっていった
開始の合図だけは椅子に座って待つ必要があるため、用意された円卓の前に座る
「…あれおかしいな、俺の周りにはアイリスと佐久間と奏音と唯利の予定だったんだが」
「ダメかな、先輩」
黒いドレスに身を包んだ刼華が、夜斗の隣に腰を下ろしながら言う
その隣に唯利、美羽、奏音、アイリスの順に座っている
円卓のため、アイリスが夜斗の右側にくるような構図だ
(文でこれ説明すんの大変だな)
『そうですね』
「どうしたの、夜斗」
「いや別に。そういえば刼華と…東堂さんは」
「美羽でいいですよ、夜斗さん」
「じゃあ、刼華と美羽たちはどこに泊まってんの?」
「同じホテルの一階床下にいる。私は温泉に一番近いとこ」
「俺の部屋の真下かよ」
そう言うと同時に、会場の電気が消されてスポットライトが夜暮と澪を照らす
始まりを知らせる演出だ。同時に、夜斗と霊斗は気を引き締める
(何かあれば殺してでも止める。俺の従弟の晴れ舞台を壊せると思うなよ、雑魚が)
(まぁ言われなくてもやったんだろうけど、夜斗の頼みだしな。たまには本気を出すのも悪くない)
『集中演算に入ります。以降、異常発見時に知らせるようにします。我が主を怒らせた罪は大きいですよ、白鷺大貴』
「会場にお集まりの皆様。本日はお忙しい中誠にありがとうございます。本日は我が黒淵家と天血家の婚約発表の場となります。お楽しみください」
冥賀の挨拶とともに、夜暮と澪がマイクを手に立ち上がる
『えー…。待って原稿どこ。あった、本日は黒淵夜暮及び天血澪の―――』
夜暮と澪の挨拶が始まり、会場が祝福ムードに包まれる
夜斗たち以外はほぼ全員中年以降の男性や、その妻や娘
つまりは家族で参加することが可能となっている
そして不意に、夜斗にスポットライトが浴びせられた
(…なにごと?)
『私の従兄にあたる、冬風夜斗です。あの恩来神社の跡取りでもあります』
横からスっと差し出されたマイクを受け取り、頭をかきながら夜斗が話し始める
「ご紹介に預かりました、冬風夜斗です。本日は冬風の代表として足を運んでおります。恩来神社をご存知にないかたのためにご説明しますと、勉強恋愛就職何でもござれの神社になります。崇める神は天照大御神です。また、恩来神社の…まぁ、子会社のようなものも全国各地にございますので、宜しければ足を運んでいただきたく思います」
即興にしてはそれなりの文になっているのは、もとから想定してあったからだ
夜暮と澪なら、先に伝えるようなことはしないだろうという予測が正しかったということになる
(夜暮覚えとけよ…)
『お疲れ様です、主様』
そのまま食事が始まる流れになり、机と椅子が高速で撤去される
そして代わりに運ばれてきたのは、かなり大型の円形テーブルが10個ほど
それでも会場の1割程度にもならないのは、この会場の広さを物語っている
「霊斗、打ち合わせ通りに頼む」
「了解。カム(インカム)は常時接続にしてあるから、いつでも何でも言ってくれ」
夜斗は霊斗から離れ、夜暮の元に向かった
「お前やったな?」
「なんのことだ」
「ここにきてあんな古典的な罠を仕掛けるなよ腹立つな」
「やれたんだからいーじゃん、夜斗。それより警備頑張ってね」
「ったく…。公安から給料出るし本気でやるわ」
「えっまじで?」
「まじだよ。じゃあ、また後でくる」
夜斗は一時間ほど、テーブルを回りつつそれなりに有名な社長やその家族なんかと会話をし、巡回を続けた
紗奈はその間、下手に絡んでくる若手社長から天音や桃香、刼華たちを守っていた
『警告。周囲2キロ圏内に白鷺大貴の霊力を確認』
「…もう来たのか。いや、やっとと言うべきか」
夜斗はインカムを使って霊斗に連絡を取ろうとしたが、ノイズが走って使えない
『妨害電波を受信しました。全電子機器が使用不可になります。ペースメーカー等医療機器は私が保護いたします』
(まじかよ。ってことはスマホも使えないな)
夜斗はそう判断し、霊斗を探した。とはいえ会場は広いため、向こうから来てくれなければ見つけることは不可能に近い
「夜斗!」
「霊斗。ちょうどいい、探していたんだ」
「刼華さんがいねぇんだ!」
「マジでか。最後に確認したのは?」
「5分前にチラ見したときにはいたけど、今確認したらいない。天音と桃香の探知に引っかからないし、会場の外だ」
「探知…?」
「あ…。後で話す、探しにいってくるか?」
「いや、俺が行く。霊斗は警戒を続けてくれ」
夜斗はそういって扉を開け、会場を出た
夏恋のナビゲートに従い歩いていると、会場ビルの路地に到着した
「まさか、な」
『警告。強い感応波を確認しました。臨時顕現します』
「感応波?」
「おそらく、主様と同じように異能をもつ人間がいます。私はその異能を感応能力と呼び、それが発動するときに感応波が発生します」
「俺に異能?」
「私自身が異能みたいなイメージです。いきましょう、主様。いざとなったら私が囮になります」
夏恋が先行して路地裏に入っていった
そこには
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