第19話 着付け

制作されていた服ができたとの知らせを受けて、夜斗たちは仕立て屋に来ていた

とはいえ、夜斗と霊斗は即着替え終わったため、女性陣待ちだ

その間に夜斗と霊斗は、模擬戦をしていた

「霊斗、抜いてから撃つまでが遅い。クイックドローしないと間に合わないぞ」

「人外でも相手にすんのか俺らは。クイックドローってどうやんの?」

「普通は抜いて構えて狙って撃つが、狙って抜いて構えて撃つ。ちょい貸してみ」

夜斗はホルスターごと借りて腰に取り付けた

そして目の前に立つ霊斗に向けて射撃する

「これがクイックドロー。早いだろ?」

当てたわけではない。真横を通過させただけだ

霊斗の目にはその弾道が見えていたため、回避行動すら取らない

「あ、ああ。なんかの小説にあったな、こんなの」

「照準器の角度や距離から暫定演算して、構えながら補正演算、射撃。ただそれだけだ」

夜斗は霊斗に銃を返し、スタンロッドのささったホルスターを右側の腰に固定した

「なるほど、こんな感じ?」

言うが早いか、霊斗は夜斗の耳すれすれを撃ち抜く

「…まさか即興でやるとはな。あと狙いがギリギリすぎね?」

「わざとだよ。お前今、反射撃ちビリヤードで後頭部撃つ気だったろ」

「そこまで見抜かれたか。それだけの能力があれば、今回襲撃があっても耐えうるだろうよ」

夜斗はそう言って、霊斗にもう一度模擬戦をするように要求したが、人の気配を感じて銃を隠すようにアイコンタクトを送った

そして自分もスタンロッドを仕舞い、椅子に座る

「やほ、夜斗先輩。あと緋月霊斗先輩」

「ねぇなんで俺毎回フルネームなの?泣くよ?」

「誰も得しないから泣かないで。夜斗先輩、みんな着替え終わったから見に来て」

「見に行く必要あるか?後で見るのに」

「夜斗先輩の知らない女心の世界だから説明は省略」

「そこ省略されたら一生わかんねぇよ」

夜斗は一人で行くのは何となく居心地が悪いため、霊斗を半強制的に連行した

意味もなく連れて行かれる霊斗と、刼華に腕を組まれて困惑する夜斗

「ついた。ここが着付け室。更衣室と繋がってるから、中で着替えてることはないよ」

「なぁ、気になってたんだけど、なんで和泉さんって夜斗にタメなんだ?」

「…それを聞いてしまうのか霊斗よ」

「それ気になる?アホツキ霊斗先輩」

「アホって言ったな?一応先輩というカテゴリーの俺にアホって言ったな?」

「刼華は幼馴染と言っても過言ではないほどの付き合いがある。親同士も仲がいい…というか、母親同士が元同級生だ」

「なんですとぅ!?」

霊斗は叫び声をあげながら後退りし、壁にぶつかり膝から崩れ落ちた

「お前に俺以外の幼馴染がいたなんて…!しかも可愛い女の子、だと…!?」

「こいつ一々騒がしいな」

「もう置いていこ。私まだ着替えてないし」

「よくよく考えたらなんでだよ」

「夜斗先輩に最初に見せたいから。他の女の子の服見たあとなら感想も言いやすいでしょ?」

「…重々よく考えておくよ」

霊斗を無理やり立たせて夜斗は部屋に足を踏み入れた

「……あれ誰もいない」

「…逃げたなあの人ら」

「緋月霊斗先輩がいるからじゃない?」

「そうだとしたら俺はもう泣くよ」

夜斗は窓際に移動し、外を眺めた

パーティー会場であるビルが見える

(夏恋、どうした?)

『…ご報告します。15分ほど前、会場に警視庁特別強襲部隊が突入。捜索と称し、会場を破壊しました。現在黒淵及び天血は、会場の復帰作業に突入』

(なんだと…?)

『システムコード【Sakurane】により特別強襲部隊は撤退したものの、準備に遅延が発生。想定される終了時刻は2時間後の開始時間直前になるかと思われます』

(冬風の人脈を派遣するか。巫女たちは今どこにいる?)

『検索…。冬風家所有の中型バスにて移動中。到着まで14分35秒』

「霊斗、少しこの場を任せる。電話してくるから」

「任せるって…。まぁいいや、了解」

ドアをしめ、外に出る夜斗

(クソが…予定外が多すぎる…!)

『もしもし、夜刀神翡翠です』

「冬風夜斗だ。今どこにいる?」

『夜斗様ならご存知なのでは?東名高速道路を降りたところです』

「運転手は翠蓮か?」

『はい。あの子以外、中型免許をもつ巫女がいないので』

電話をとったのは巫女を取りまとめる立場にある夜刀神やとがみ翡翠ひすい

会話に出た翠蓮すいれんは翡翠の妹だ

「予定変更だ、会場に直接迎え。黒淵と天血を手伝い、会場設営を急ぐように」

『承知いたしました。報酬は弾んでもらいますよ、夜斗様?』

「…何が望みだ」

『私と翠蓮は東京に行きたいです』

「よかろう。手配してやる」

『夜斗様と紗奈さんも、ですよ』

「わかったわかった。頼んだぞ」

『はい』

夜斗の父が営む神社には、総勢二十名の巫女がいる

全員代々夜斗の家系に仕える立場だ

今回はその半数ほどが警備のためにこちらに来ることになっている

「…とりあえず凌げるか…?ああ夜暮、俺だ」

『どうした?こっちは想定外の事態で忙しいんだが…』

「警察が来たんだろ?それは聞いた。うちの巫女を向かわせるから上手く使え」

『そんなのいつ知ったんだよ…。まぁいいや、ありがたく借りるぜ』

『あ、夜暮代わって。もしもし澪だけど』

「どうした?」

『白鷺見つかったよ。うちの人たちが会場に潜んでるの見つけた。けど確保できなかったから、もしかしたら突入してくるかも』

「了解、対策を講じておく」

『じゃねー』

『…夜暮だ。こっちはうまいこと進めるから、あとは頼んだぞ』

「おう」

夜斗は電話を切り、部屋に戻った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る