第17話 対面会

服の採寸を終えた一同は、昼食をとるためにとあるレストランに来ていた

澪の友人との顔合わせ、ということになっている

「とりあえず各机に部屋ごとで移動しよう」

夜斗の大号令で席につく一同。霊斗はまたしても一人…と思われたが、アイリスと佐久間の机にくるよう促されていた

「え?俺のこと好きなの?」

「冗談は顔だけにしなよ」

「右に同じ」

「そこまで強く言うか!?」

夜斗は変わらず紗奈と、天音と桃香、唯利と奏音も変わらない

「あとは澪側がくるのを待つだけだ。と、来たな」

このレストランは貸し切りになっている。そのため、来るのは今回の立食パーティーの関係者のみ

ドアを開けて入ってきたのは5人。事前連絡通りだ

「久しぶり、夜斗先輩」

「きょう…か…?」

「久しぶりだね、唯利」

「美羽…!?」

夜斗と唯利が、それぞれ別の人に衝撃を受ける

澪の友人として出てきたのが意外であったためだ

「どこで、澪と知り合った…?」

「きっかけは、夜斗先輩が三年生のとき、澪先輩と話してたのを見たとき。その後に話してみて気が合って、みたいな」

「規格外の偶然、だな…。ある種の奇跡か」

唯一仲の良かった後輩が目の前にいる

それが夜斗を混乱させているのだ

「…先輩、少し後で話そうよ。暇でしょ、どうせ」

「警備があるから暇ではないな。パーティーで時間を作る」

困惑を隠せないまま、夜斗はそう言って唯利に目を向けた

「信じられないでしょ。私も信じられない」

「だって…、名古屋から来たの?」

「半分正解。私は隣の学校の転校生だから、名古屋から静岡にひっこしてきて、そのときに澪に会った」

「…私と同時期」

「勘違いしないで。唯利に合わせたんじゃない。たまたま親が転勤しただけだから」

二人の会話から、友人であることはわかるのだが

「なんか空気重いな」

(言ったぁ!俺が言えなかったことを霊斗が包み隠さず言ったぁ !)

「唯利とそちらの方はどんな関係なのよ」

「元クラスメイトです。唯利の転校直後に親の転勤が重なったので、転校せざるを得なくなり名古屋からあなた方と同じ地域に来ました。そしてそこで道に迷っていて澪に会って、道案内してもらったところから仲良くなってます」

「唯利が転校したの昨日よ?」

「…私、前の学校出てから転入に一ヶ月間がある。親が転勤する手続きが長引いたのと、住むところ探すのが長引いたの」

「私の転校が決まったのは、唯利が出てから半月後でした」

そう言う彼女は、改めて東堂とうどう美羽みうと名乗った

夜斗が話していた刼華と美羽、そして残りの三人が澪側の友人だ

「他三人は知ってるよな。隣のクラスだし」

夜斗が視線を向けると、女子達がピクッと震えて目を逸らした

「…どういうことだ刼華」

「怖いんでしょ。何されるかわからないし」

「…俺そんな怖いかな」

夜斗がため息をつく

理由がなんであれ、警戒されていてはパーティーの時にボロが出る

それは最終的に、黒淵や天血の弱みになりかねない

「親睦会、といこうか」

また夜斗がため息をついた

席配置が変更になり、夜斗の周りには澪の友人が配置された

「…霊斗、なんか仕切れ」

「やだよ。コミュ障ナメんな」

「そこ自慢する?まぁいいや、この度は俺の親戚のためにお集まりいただきありがとうございます。とはいえ、特に言うことはなくなったんで、タダ飯といきましょうや」

夜斗がそう言うとほぼ同時に、大量の料理が各テーブルに配置された

シェフらしき人の説明を聞き流し、手を付ける一同

「先輩、ミートソースついてる。動かないで」

「ん?ああ、悪いな」

「夜斗さん、こちらの料理は食べませんか?美味しいですよ」

「ありがとう。取皿もらわないとな」

「はい、あーん」

「え?むぐっ…。中々いける」

謎に世話を焼かれる夜斗を見て、手を尋常ではないほど握りこむアイリスと奏音

「なんであんなに構われるのかしらね。刼華ちゃん?の方はわかるけど」

「さてね。僕も少々気になるよ」

「軽く調べたけど、付き合ってるわけじゃないしね。あの美羽って人は、本当に今日初対面みたい」

3人の意見が一致した。あれは詐欺だ、と

「そうだとして、どう伝えようか」

「あら、席配置が連絡されたものとは変わってますのね」

店に入ってきたのは、後から合流することになっていた夜暮の妹、夜架だった

クスクスと笑いながら、奏音の隣に腰を下ろす

唯利は黙々と食事を食べているばかりで、奏音と自分の間に座った夜架を気にする気配もない

「…君が夜架さんかな」

「えぇ。黒淵夜架と申しますわ。黒淵冥賀・夜暮の妹で、末っ子ですの」

「ねー、夜架さんならあの状況の理由わかったりしないー?」

「知ってますわよ?」

「「「教えて!」」」

アイリスと奏音、蚊帳の外にいた唯利が夜架に詰め寄る

「そ、そうですわね…。先に少しでいいのでお昼食べてもよろしいでしょうか。朝から準備で何も食べてませんの」

「いいわ。というか、年齢は?」

「今年で16ですわ。刼華さんや紗奈さんと同い年ですわね」

夜架は出てきたパスタを食べ、口を拭いてから話し始めた

「美羽さんには、黒淵から夜斗さんを紹介してますの。ただ、本人には伝えていませんわ」

「個人情報保護法って知ってるかしら」

「存在と好みとお兄様との過去しか話していませんわよ。流石に住所だとかは教えていませんわ」

「…まぁ、夜暮がいいって言ったなら仕方ないけど…。夜斗の好みとか私ですら知らないわよ?」

「えぇ、わたくしもお兄様に聞くまで知りませんでしたわ」

夜架はそう言ってクスッと笑って、夜斗を呼んだ

「なんだよ、夜架」

「貴方の好みを聞いておきますわ」

「前に言わなかったっけ?」

「今ここで言っても宜しければ原文のまま言いますわ」

「おかしくない?プライバシーは?」

「お早く。わたくしの口が滑る前に」

「ったく…。好みらしい好みはないが、家事ができて世話焼きな甘えたがりだ」

「美羽さんが合致しますわね」

「お前のせいかさっきから唯利の友達なのにめっちゃグイグイ来るのは」

呆れ顔で夜架を撫でる夜斗。夜架はまんざらでもなさげだ

「わたくしの用事はそれだけですわ」

「そうか。アイリス、明日のことで話があるからパーティー終わったら部屋に来てくれ」

「ん…?あ、りょーかい」

夜斗がその場を離れた瞬間に、奏音と唯利がアイリスに目を向けた

「な、なに?私の顔になにかついてる?」

「幸せそうなニヤケ顔がついてるわ」

「明日夜斗とデート?」

「ふぇ!?に、にやけてないし!デート…になるのかな、ってなに言わすの!?」

貸し切りでなければ怒られそうな音量でアイリスが叫ぶ

辛うじて夜斗には聞こえなかったようだ。アイリスたちのやり取りの間にも、夜斗は刼華と美羽にグイグイ来られて困り顔だ

「あ、明日やることがないっていうから、デートしよって言ったら即オーケーされただけだもん…」

机と腕で顔を隠したアイリスがボソッと呟く

「抜け駆けは良くないわ、アイリス」

「…アイリスさん、夜斗のこと好きなんだ。ふーん」

アイリスはしばらく顔を上げることができなかった

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