第16話 伝達と仕立
「伝達を始めます。まず、白鷺大貴が脱走し、逃走中なのは周知の事実かと思われます。それにより、黒淵は警備を増強しました」
『一応天血からも腕の立つ親戚かき集めたんだが、立食パーティーに間に合っても仕立てには間に合わない』
『黒淵の方も大方同じでな、今日の朝招集したからあんま早くはない』
「そこで夜斗と霊斗には恐らく公安の方から、正式な依頼として警備要請がきてると思われます」
「ああ、来てたな」
『来てたらしいな。けどそれがなにかあるのか…ですか?』
冥賀は大通りの信号待ちの間に、夜斗と霊斗のメールにとある文書を転送した
「これは…」
『白鷺大貴からの犯行声明文!?』
「はい。実は、これが朝方黒淵のポストに投函されていました。つまり、捕獲されて千葉県に搬送されたにも関わらず、もう神奈川に戻っているということです。黒淵の本拠点は静岡ですが、投函くらい地元の誰かにやらせればいいので」
「なんて書いてあるの、夜斗」
「今夜の立食パーティーの女を数名誘拐する。陵辱して洗脳してやるから覚悟しておけ、だそうだ」
「…ごめん思ったより吐きそう」
「大丈夫かい?」
「…うん。佐久間は?」
「特に問題ないね。歯の裏に毒を仕込もうとは思うけど」
「続きがある。緋月の女は全員、冬風の女は妹とバイト仲間を重点的に狙う。天血の友人は三人ほど連れて行く…らしい」
「ここまで来たら警視総監の息子でもアウトでしょ!?なんでまだ隠蔽できてるのさ!」
アイリスが悲痛に満ちた声を上げる
アイリスのクラスメイトの一人は、誘拐され襲われて惨殺されたのだ。故に、トラウマとして根付いているのだろう
「裏組織がいるだろうな、これ」
「正解です。だから強気にきてるのが答えとも言えます。なので今回、僕は公安を通して殺害許可を取ろうとしたのですが、まだ審議が長引いています」
『天血と冬風の連名だから審議をしてる、って感じだな。どこか一つなら却下されただろ』
(夏恋、審議状況は?)
『滞っています。政府も裏組織との繋がりは認識しているため、決めあぐねているようです』
「…で、冥賀はどうするんだ?」
「教師の名にかけて、生徒を守りますよ。正当防衛でどうにかなるかわかりませんがね」
『澪のためなら人を殺すって言ってる医者もいる。だからってわけじゃないが、とりあえずは殺すで安定だ』
『けどそれって誰がやるんですか?俺と夜斗?』
「その場に応じてです。緊急事態なので、女性陣は夜斗と霊斗から離れないようお願いします。また、澪の方は夜暮の妹にあたる夜架が警備に入ります」
「なら澪の方はどうとでもなるな」
「伝達は以上です。席配置もそれに準ずる形に変更願います」
「元から俺アイリス佐久間唯利奏音で一つ、霊斗と霊斗妹二人プラス紗奈で一つの予定だ。紗奈が離れるけど、とりあえず行動は俺と共になる。霊斗は3人追加できるぞ」
労働の均等化のために夜斗がさらっとそんなことを言う
「では、天血側から三人ほど追加しましょう。向こうは二人を夜架に押し付――任せます」
「ただ、席配置的に飯のときは無理だ。立って食うようになればいいが、その前の開幕挨拶なんかは…」
「そこは黒淵の警備をつけておきますし、不審者がいた場合即追い出します。マスコミも今回は来ないよう伝えましたし」
冥賀はそう言って、到着した旨を告げた
そこはわりと高い服を取り扱う専門店だ
「女性陣はここでドレスを、男性陣はスーツ調のものになります。ただ、男性陣とはいえ僕ら含めて四人なのでとても後回しです。それぞれのグループの護衛についてください」
『了解、です』
『俺は会場に戻る。進行の確認と、澪のドレスを褒めなきゃならん…』
「楽しみなんだろ」
『当然だ。ただ、言葉が出るかどうか』
「惚気は後で聞いてやる。行くぞ」
夜斗たちは車を降り、服屋の中に入った
女性陣が更衣室に連れて行かれ、サイズを測る
「紗奈って意外とスタイルいいのよね。触っていい?」
「だ、だめです!奏音さんは何をするかわかりません!」
「じゃあ私は?私ならいいでしょ?」
「う…。何かしたらお兄様に…」
「ごめんなさい」
きゃっきゃした声が響く中、夜斗と霊斗は装備を点検していた
レッグホルスターに収められたそれぞれの武装を布で拭き、マクロファイバーの布でもう一度拭く
「女子らはいいな、あんだけ気楽で」
「アイリスは無理に気丈に振る舞ってる。今日で終わらせないと明日に響く」
「なるほどな。佐久間さんは?」
「気にしてはいるはずだ。ただ、自分が襲われるとは思っていないだろう」
「紗奈さん…は、警戒心露わだったな。唯利さんは?」
「多分まだ白鷺のことがわかってない。あいつは自分の悦のためなら何でもする。それこそ、洗脳や買収もな。一度だけだが、俺の後輩を襲うためにその子の顧問を買収し、襲わせようとした。助けるフリをして上手いこと雰囲気を作ろうとしたらしい」
「…そのときは、どうしたんだ」
「お前も知ってるだろ。
「中学時代、だよな?」
「正確には2ヶ月前。俺らは高校生で刼華は中学生だ。まぁ紗奈とか桃香の同学年だしな」
夜斗はそう言って、満足げにスタンロッドを眺めた
そしてホルスターに仕舞い、抜きざまに起動しつつ振り抜く動作を数回行う
「刼華はとりあえず助かった。ちなみに場所は公園の茂みだったから、夏恋がいてもおかしくはない。まぁメイド服だったしターゲットにはなったが、基本俺の中にいるから襲われることはない」
夜斗は、銃を構え、撃ちながら照準器の補正を手動で行う霊斗を見た
ハンドガンとはいえ、リボルバー型だ
装弾数は改造されており、24発。各カートリッジに4発入り、それをシリンダーに装填する
3発ほどで補正を終え、くるくると回してレッグホルスターに差した霊斗
「なるほどな。夏恋さんにターゲットが移行すれば、刼華ちゃんは襲われにくくなると」
「ああ。兎にも角にも、今日が正念場。気合い入れていくぞ」
「ああ」
夜斗と霊斗は待ち合い用の椅子に並んで座り、互いを見ることなく拳を打ち合わせた
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