第12話 夜斗と紗奈

紗奈は部屋で、ベッドに正座して夜斗を待っていた

やることがないからというのもあるが、紗奈がそうしたいと思ったが故の行動だった

「ただいま。って、紗奈…。何で正座なんだ」

「お兄様をお迎えするためです」

「なんつーか、拒絶の意思を見てる気になるぜ…。いっそ寝てたらスッと横に入ったのに」

「堪能できないじゃないですか」

(堪能する気だったのか)

『存外ブラコンですね、妹様』

夏恋が姿を現し、ふぅ…と息を吐き出した

「夏恋さん…」

「ここは鏡がないので、私が髪を整えましょう」

「お願いします」

ブラシを使って紗奈の髪を整え始めた夏恋にアイコンタクトを送り、夜斗は部屋を出た

エレベーターホールに出て、夜暮と澪とグループ通話を始める

「俺だ」

『俺だ』

『私だよ』

『急に呼んですまなかった、夜斗。完全にこちらの不手際だ』

「構わん。特に何か用意したわけではない」

『ごめんねー、夜斗。っていうか話すの久しぶり?』

「そうだな。学校じゃあんま接点ないし、話すこともない」

『冷たいなぁ。そういえば明日の流れなんだけど、冥賀かお兄ちゃんから聞いた?』

『それを話すための通話だ』

夜暮が一拍置いて話し始める

『まず、朝起きたら私服に着替える』

「そこからじゃねぇだろ普通よ!」

『…声を荒だてるな。エントランスに集合したら、俺と澪も合流する。その際、澪の友人たちとも顔を合わせてもらうぞ』

「ああ…。そういえば、零の婚約者もいるんだっけ?」

『いるよ。あんまり人と話さないんだけどね、あの子』

『その後、衣装のサイズ合わせのために仕立て屋に向かう。全員採寸して作らせるから、特に持っていくものはない。その際にできた服は思い出に持ち帰ってくれてもいいし、こちらで処分してもいい』

「りょーかい。それは明日お前から説明してやってくれ」

『ああ。そして採寸が終わったら、昼食になる。あくまで俺と澪の友人同士の顔合わせという形になるが、その際俺と澪は打ち合わせで離脱する。指揮はお前に任せるから、好きにやれ』

「飯代は?」

『後日納金で話をつけた。好きなだけ食え』

『太っ腹だねぇ、黒淵家は。天血家の方からは、とりあえずインカムを支給するよ。いざとなったら連絡取れるようにしとかないと不便だからね』

「オープンチャンネルか?」

『クローズドチャンネルに切り替えられるよ』

オープンチャンネルというのは、要するに全員が聞こえる無線のことで、クローズドチャンネルというのは個人に宛てることができる無線のことだ

天血家はインカム技術において先進的であり、それを医療に役立てている

『とりあえずそんなところだ。昼食が終わり次第、うちのものが迎えに行くから、服を取りに行ってもらって、ホテルで着替えてくれ。同じ人間が会場まで送ることになっている』

「了解。その後は?」

『泊まってくれた方がお前らが楽だと思う。二次会もあるしな』

「結婚式かっての。まぁいいや、じゃあ2泊させるのか?服、一泊分しかないぞ全員」

『問題ない。新品の服を揃える予定だ。服屋で採寸したものを参考に、天血家が買いに行ってくれる』

『まぁけど、センスは求めないでね?着れればいいって伝えてあるから』

「了解。で、明後日は?」

『自由だ。すぐ帰るなら新幹線を手配するし、夕方に帰るならまとめて兄貴が送る』

「じゃあそう伝えておく。アイリスと佐久間はバイトがある可能性があるからな。俺は明日明後日シフトないけど」

『そーいえば夜斗。私の親戚の一人が、唯利の元同級生だってさ』

「…明日来るのか?」

『来るよ。ただ、いじめられてたのを見てることしかできなかった、とか言ってたから先に伝えておいてね。名前は』

澪が言った名前を掌にメモして、夜斗たちはグループ通話を切った

「…聞いていたのか、アイリス」

「通りかかったからね。なーんて、夜斗に会いに来たんだよ」

「シフトは代わってやらねぇぞ」

「別にいいけど困るの夜斗だからね?」

「それもそうか。いつのシフトだ」

「月曜日。風華家に呼び出されて、学校も行けないの」

「わかった。店長には伝えたのか?」

「家の用事でって言ったら、代わりを探せって言われた」

「あのクズ…。俺から連絡しておく」

夜斗は電話をかけるためにスマホを操作しようとした。だが

「…まだ何かあるか?」

アイリスが背中側の裾を掴んでいるため、離れように離れられない

そのため、スマホの操作を中断せざるを得なくなった

「お願いがあるんだけど、いいかな?」

「内容による」

「今の話聞いてた感じだと、明後日は何もないよね?」

「今んとこはな」

「じゃあさ、私とデート…しよ?」

上目遣いのアイリスを拒絶することは叶わず、夜斗はその申し出を受けた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る