第11話 入浴(夜斗&霊斗+α)

「よし、風呂だな。紗奈、少しくつろいでおけ、明日は忙しくなる。先に寝ててもいいぞ」

「はい。お待ちしております、お兄様」

紗奈の回答を予測していた夜斗は、何も言わずに部屋を出た

目の前の壁に寄りかかって目を閉じる霊斗の鳩尾に手刀を突き刺す

「おぐぉ!?」

「ホテルではお静かに。行くぞ、霊斗」

「待たせておいてこの仕打ちか…」

「お前が十分前からここにいるのは紗奈経由で桃香に聞いてる」

「あんにゃろう…」

文句を言いつつ、開封したばかりの服一式とアルミ製の取っ手付き箱を床から拾い上げ、他のペアと同じように温泉に向かう

「最初が俺らだったら事件だったな。絶対動かなかった」

「夜斗は一度風呂はいると外に出ないからなぁ…。出たとしてももっかい入るだろ?」

「当然だ。まぁ今日はわからんがな」

「紗奈さん隣にいるんだから出たら風呂入れよ…」

霊斗は呆れ気味にそう言って、放置されたシャンプーを手に取り頭を洗い始めた

「霊斗」

「なんだよ」

「風呂の湯飲むなよ?」

「飲まねぇよ!ガキが俺は!」

「あと、ありがとな。白鷺取り押さえるの手伝ってくれて」

珍しく夜斗が礼を言ったのを聞いて、目を見開く霊斗

そしてそのせいで目にダイブするシャンプー

「目が!目がァァァ!」

「何してんだお前。流すからこっち向け」

「す、すまん…」

一瞬水にしてやろう、と考えた夜斗だったが、やめた

普通にお湯をシャワーから出し、霊斗に向けてかける。熱々のお湯を

「あつぁぁぁ!?」

「あ、ごめん。俺の使う温度じゃ普通の人にとっては熱いよな。ほいぬるま湯」

バシャーンとかけられたお湯は、確かにぬるかった

夜斗は日頃から、かなり熱い湯にて風呂に入る。そのため、シャワーであってもある程度の熱さに耐えられるのだった

「つかなんでこのタイミングで目に石鹸入るんだよアホ…」

「お、お前が柄にもなく礼なんて言うからびっくりして目を見開いたんだよ」

「えーとシャワーを冷水モードにして、と」

「悪かったってそれはアカン死ぬ」

夜斗は手を止めて、自分の髪を洗い流した

そして改めて頭を洗い始めた霊斗が洗い流そうとしてるのを見て、頭上からシャンプーを落とし続ける

「ふぅ、って目がァァァ!」

「まだ残ってるぞ」

「キサマ無限シャンプーしてやがるな!?やめろよ!」

「修学旅行みたいだろ」

「嫌なイメージだなそれ!」

この後は普通に体を洗い、浴槽に体を沈めた二人

「熱いわ!」

「そうか?これくらい家の風呂だろ」

「お前は熱いのに慣れてるからな!」

「騒がしいですね。少しはゆっくりと湯に浸かってはどうですか、緋月君」

浴室に入ってきたのは冥賀…と、零だ

「おー、緋月じゃねぇか。つっても知っててきたんだけどな」

体を洗い終えるまで、無言で待つ霊斗と夜斗

零と冥賀が腰にタオルを巻きつけて浴槽に入る

「タオルだめ、なんて書いてねぇしな。つーことで改めて、白鷺の件についてだ」

「一族が調べ上げたところ、後ろで手を貸している反社会組織を確認しました。よって、彼の実家に捜査が入ります。これは公安部の特権に基づく、外部捜査です」

「…ってことは、あの白鷺って人の親が反社会組織と繋がってた…?」

「厳密に言うなら、彼の父親の友人が反社会組織を取りまとめる立場だ。だから白鷺警視総監にも捜査が入る」

零はそう言って直角の壁によりかかった

そして持ってきた赤い盃に、何かを注いで飲み始める

「酒か」

「酒だ。安心しろ、日本酒味のノンアルだから」

「それはジュースだ」

「ともかく、僕の方からも礼を述べさせていただきます。特に緋月君は、黒淵や天血に無関係ながら白鷺の件の対応をしていただいたので」

「やー…改めて言われるとこそばゆいんですけど、ただ友人を手伝っただけなので…。それに銃も借りましたし…」

「そーだ緋月その銃な。お前用の特注だから返されても困るんだわ。だからお前にやるよ、選別だ」

「選別といえば、婚約祝いどうだったんだ?」

わりと夜斗が気にしているのはそこだ

金額的な喜び方をしたのかどうか、である

「夜暮にはいらねぇって言われましたよ。高いものより、兄貴がここにいることが一番の祝いだ、って。これではどちらが兄かわかりませんね」

「俺の方はめっちゃ喜んでたな。デザインは俺のセンスだったけど、お気に召したらしい」

「そのへん、夜暮と澪の違いだよな。まずまずって感じの反応か」

「そういえば夜斗。先程述べたように、夜暮に拒否されてしまったのでペアチケットが余っています。好きな女子と行けるよう渡しておきます」

「…霊斗、天音か桃香といってこい」

「あいつらテーマパークあんま行かないぞ。というか俺が行きたくない人混みやだ」

「コミュ障め…」

夜斗はため息をついた

零は他人事のように笑っている

というよりは実際他人事なのだろう

「つーか零と冥賀の婚約者はいねぇのかよ?」

「公表はまだです。予定者はいます」

「俺もだ。つかまぁ、俺は流華なんだけど」

「何なん?その天血と黒淵の間で移動する人脈」

「パワーワードですね」

「冥賀の婚約者は俺の親族だ。明日来るぞ、友人枠で」

「へー。特に興味がない。なぁ、霊斗」

「そうだな女っ気のない俺たちには関係のないことだと言いたいけど夜斗の周り可愛い子多いなクソが」

「…なんかごめん」

後ほどなにか奢ってやろう、と思った夜斗だった

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