第7話

「すまんな、霊斗」

「いや構わんけど、何かあったん?」

「うちの親族の手違いで、立食パーティーの面子が足りないらしくてな。補充要員」

「え?いつ?」

「明日。あと2時間で出る」

「泊まり?」

「うん」

「天音、桃香。早急に泊まりの支度をするぞ」

霊斗が振り向くと、そこにはスーツケースを引く天音がいた

霊斗と天音は双子だ。つまり同い年

そして桃香は、二人の1つ下。そして霊斗は夜斗の中学時代の同級生だ

桃香と紗奈は現在同級生である

「何その荷物」

「紗奈から連絡があったわ。泊まりになる、って」

「俺には?」

「伝えてないわね」

「イジメだ…」

霊斗が肩を落として歩き出したのを、夜斗が止めた

「お前の荷物はうちの巫女さんが一泊分常備してる。社務所行くぞ、当直に言えば出してくれる」

「え、いつのまに…」

「安心しろ、新品だ。よしお前らの準備はいいな」

手際のいい夜斗に感服しつつ、あることに気がつく霊斗

「お前さては何かあったら神社のバイトやらせる気だったな?」

「お前のような勘のいいガキは嫌いだよ」

「お前、本当にそんなこと思ってんのか?」

「思ってたら頼らねぇよ」

「「へへへへへへへ」」

「…あれが親友の果てに行き着く場所…」

「見たらだめだよ、桃香。目が腐る」

「「おいこら」」

息ぴったりである

そこに紗奈が合流し、夜斗の荷物と自分の荷物を一つのスーツケースに入れて持ってきた

「ありがとな、紗奈」

「いえ、お兄様のためですから」

「またその呼び方…。夜斗の趣味か?」

「風習ですよ、緋月霊斗」

「俺だけフルネーム!」

紗奈が小さく微笑む

天音や桃香の顔にも、自然と笑みが溢れた

「さて、俺たちだけ先にくるはずだが…。っときたな」

「僕自ら来てあげましたよ、夜斗。とこの方たちは…」

「霊斗とその妹」

「はじめまして、緋月天音です」

「同じく桃香です」

「僕は黒淵冥賀。如月中高一貫校の高等部数学科教師をしています」

自己紹介を済ませ、冥賀が車に案内をする中、夜斗は疑問を口にした

「澪の方は友人集めないのか?」

「重複しても可なので、問題ありません」

「すまん、9人しかいない」

「問題ありません。澪も5人かき集めてくれたのでね」

冥賀は車に乗り込み、奏音の自宅へと向かった

こうして9人を集めた冥賀は、改めて事情説明のために会場近くのコンビニに立ち寄った

ちなみに学校のある静岡県から東、神奈川県である

「まず、ご足労いただきありがとうございます。僕は黒淵冥賀。今回の立食パーティーの主役、黒淵夜暮の兄にあたります」

「アイリス・アクシーナ・アンデスティア・風華です。夜斗のバイト仲間、ですね」

「時津風佐久間です。アイリスに同じく、バイト仲間です」

「…あ私?桜嶺唯利。知ってのとおり、夜斗のクラスメイト」

「同じくクラスメイトよ。九条奏音」

「皆様方、一応今の名前だけ覚えてください。関係を聞かれた際は夜暮の友人としてお願いいたします」

霊斗と天音は紙に書いて覚えようとしているが、桃香はもう記憶したのか外を眺めている

「今回の趣旨を説明させてもらいます。僕の実家は医者をしています。僕が教師になったため、跡取りとして弟である夜暮に婚約者が付随する形となりました。その結果、僕の大学時代の友人である天血零の妹に声がかかりました」

「なぁ冥賀、お前の親父と零の親父の関係ってなんなんだ?」

「僕の父と零の父、そして君の父は高校生時代に寮で同じ部屋だったらしいですね。今でも仲がいいですよ」

「知らんかった…」

夜斗は父親の交友に詳しくはない

そもそも父の高校の名前さえ知らないのだ

「そしてあろうことか、僕の父は本日の会食まで、明日の立食パーティーのことを忘れており、通達が遅れこのような事態になりました。お詫びさせていだきます」

「黒淵さん、だっけ。貴方のところはわかったけど、零さん…?のお父さんはなんて?」

「二人して忘れていたようです。何なら、夜斗の父にも話が行ってるはずですが」

「あんのクソ親父め…」

冥賀の奢りで購入したコーラを呷り、咽る夜斗

そんな夜斗の背中を擦る紗奈を咎める目はあったものの、声は出なかった

「零の親父って何してるんだっけ?」

「同じく病院です。知ってるでしょうに」

「他のやつは知らねぇからフォローしたんだよ。ってことで、急な呼び出しに応じてくれてありがとな。アイリス、佐久間、桃香、天音、唯利、奏音、そして紗奈」

夜斗が声をかけると、霊斗が不服そうに手を上げた

「俺は〜?」

「来てくれると信じて疑わなかった」

「なら仕方ない」

「完全に黒淵の不手際なんだが、タダ飯だよな?」

「無論です。服のレンタルもこちらで出しますが、明日夕方までに全員分を揃えますので、また朝8時頃にホテルロビーに集合でお願いします。また、部屋はダブルベッドかツインベッドの部屋しかありませんでした。部屋分けを…夜斗」

「基本的には男子同士女子同士になる。俺と紗奈、唯利と奏音、アイリスと佐久間、天音と桃香。あと霊斗と虚無」

「俺一人!?」

「ソファーで寝るなら桃香天音ペアと一緒に」

「やった一人だー(棒)」

霊斗が呟く

「別に霊くん一緒でもいいよ?ソファーだけど」

「お兄ちゃん一緒でもいいわ。ソファーで」

「腰痛めるわ」

部屋割は決まったため、ホテルに移動する一行

ロビーで鍵を受け取り、それぞれに渡される

渡されたのはツインベッドの部屋が三つと、ダブルベッドの部屋が二つ

「ダブル一つは霊斗として、あとどうするか。紗奈、ダブルでいいか?」

「はい。お兄様との添い寝が久しいので、堪能します」

「よしじゃあ残りはツインベッドな」

夜斗がそれぞれに鍵を投げ、ホテル最上階にエレベーターにて移動する

ビジネスホテルではなく、VIP用のホテル最上階だ

ルームサービスも充実している

エレベーターホールにて冥賀が最終連絡を行う

「明日は8時頃にあのエントランスにお願いします。ルームサービスはご自由にどうぞ、黒淵が費用を持ちます。また、浴室は貸切露天風呂がありますが、時間を決めて入ることをオススメします。わからないことがありましたら、夜斗経由で連絡をください」

それだけ言って、冥賀はまたエレベーターに乗り下に降りた

ここまで来たのは大型バン。レンタカーだろう、とあたりをつける夜斗たち9人

「風呂は時間分けだな。二人ずつにしよう。基本ペアごとで、今が18時だから、18時半から一時間ずつ。俺と霊斗は最後、かな」

「お兄様と私でワンペアですね。部屋割り通りでいきましょう」

「ねぇ俺は?俺また一人になるよ?」

「私たちと入れるならどうぞ」

「ごめんなさい」

「紗奈、悪いがお前は奏音ペアと入ってくれ。霊斗に話がある」

「…承知いたしました。お兄様の意向に従います」

若干不服そうに紗奈が言う

その場で解散となり、まず奏音ペアから入ることになった

紗奈と一度部屋に行き、着替えを持たせて紗奈を送り出した夜斗は、窓を開けて空を見た

「全く…退屈しねぇな、この世界は」

そう呟いて、持ってきたカメラで街の風景を撮影した

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る