第4話
科学室をあとにした三人は、職員室に来ていた
零…と、冥賀に話をするために
「失礼しま…って零しかいねぇのか」
「おー。案内は終わったかね?」
「一通りな。移動教室とかは一緒に行くことにした」
「その方がいいな。んで、何かようか?」
「一応冥賀と零を紹介しにきたんだが…」
「冥賀なら教科資材室だ。俺はもう帰る」
飲み行くしな、と言ってパソコンを閉じる零
夜斗は職員室に入り、零の席の隣の椅子に腰を下ろした
「座んなよ。冥賀に怒られるの俺なんだぞ?」
「まぁまぁ。唯利と奏音もこいよ」
二人が中に入り、夜斗の後ろに立つ
「零は知ってのとおり、うちのクラス担任な。数学科教師で、俺ら2組と4組、6組を担当してる。冥賀は3組の担任で、1組3組5組の数学科教師兼剣道部顧問だ」
「零先生って呼んでいいぞ。そういや夜斗、澪知らないか?LIME送っても返信こないんだけど」
「さっきすれ違ったぞ。科学室に行くんじゃね?」
「じゃあ2時間くらい返信はないな。必要なことだけ送っとこ」
零は物理キーボードがついたスマホを取り出し、コミュニケーションアプリLIMEを起動、澪にメッセージを送った
「僕の席で何をしているんですか、夜斗」
「おっ、戻ったか」
眼鏡をかけた白髪の教師が、クラス名簿の角を夜斗の頭に振り落とした
回避が間に合わず、見事に脳天に受ける夜斗
「うぐぉぉ!?」
「全く…。生徒に見せられない書類も多々あるんですから、あまり無断で席に座らないように。次は力を使います」
「今使われたけどな!」
「…騒がしいね」
「ほとんど親族みたいなものだから仕方ないわ。冥賀と夜斗は従兄弟だけど、零と冥賀も義兄弟になるわけだし、澪と夜斗も遠い親戚になるのよ。将来的にだけどね」
「この学校、イレギュラーが多すぎて退屈しない」
唯利がため息をつく
「ああそうでした。桜嶺さん、君に学年主任から伝言を頼まれています。パーカー脱げ、だそうです」
「そんなに私の下着が見たければ直接言ってくださいって伝えてください」
「わかりました」
「それでいいのか…」
「あの学年主任、俺たち教師にもセクハラしてくるからな。噂じゃバイセクだって話だ」
「バイセクだろうがなんだろうが、セクハラは重罪だろ」
夜斗がそう言って、職員室に来るまでに買った乳酸飲料を飲み干す
「誰が誰を好きになろうが関係ねぇが、それを否定するのはいただけない。けど好きだからってセクハラが許されるほど日本は緩くないさ」
「零はテキトーだからな、そのへん。飲みに行くのって二人でか?」
「いえ、正確には両家顔合わせです。僕ら黒淵家の六人と、天血家の四人で」
「婚前顔合わせってやつか。めんどくさいな」
「まぁタダ飯にありつけるから俺としては万々歳だ」
零はそう言って引き出しから小さい箱を取り出した
「それは…?」
「…澪への婚約祝いだ。って言っても、大したものじゃないよ。10年くらい前に買ってやったシュシュが寿命を迎えたらしいからな」
「ほーん」
「…夜暮に何か買うのも久しぶりで、何を持たせればいいかわかりませんでしたが…とりあえずこんなところです」
冥賀がカバンから取り出して見せたのは、千葉県にあるテーマパークのペアチケットと、ワンペア数十万円とも言われているペアネックレスだ
「お前マジじゃねぇか。俺の婚約祝いが霞むぜ…」
「誰からであれ、祝物は嬉しいものです。それが安くてもね。ただ僕は、夜暮に兄らしいことをしてこなかった。だから、悪い言い方をすれば金銭で補うだけですよ」
冥賀はそう言って物をカバンにしまい、立ち上がった
零はつけているダテメガネを外して机に置き、夜斗にポケットから取り出したライター型の何かを手渡しつぶやく
「…単発スタンガンだ。白鷺が襲ってくる可能性があるから、そのときに使え。対象者に底を触れさせて火をつけるように操作すれば使えるようにしてある」
「あ、ありがとう…。なんで急に?」
「転校生が来るって聞いたときに、特注で作らせた。白鷺が優等生ぶった極悪人なのは職員の間でも問題になってる」
「あら、私達にはないのかしら」
「お前らはライター持ってたら不自然だろ」
「俺も持ってたら不自然だよ」
夜斗は不服そうにしながらポケットにスタンガンを押し込んだ
ついでに渡された紙に、使用方法や注意事項が記載されているらしい
「桜嶺は特に気をつけろ。確実に襲いにくる。だからこれを渡しておこう」
零が取り出したのは、メリケンサックだった
手で握って使うアレだ
「か弱い女子高生に何求めてんだお前らは!?」
「僕は無関係です。君たちには黒淵から贈り物をします」
冥賀が机の引き出しから出したのは、コンパクトな市販品のスタンガンだ
箱のままで、説明書もある
「零の単発式に比べて携帯性は最悪ですが、電力や利便性はかなり高く、それでいて充電すれば再利用が可能です。ただ、市販品だと単発か2発なので、技術班が4発まで増やしてあります」
「わーお俺のやつマジで弱い」
「今度箱で送ってやるから許せ」
「あ、ありがとうございます」
「受け取っておくわ。そこまで警戒することかしら?」
奏音の言うことは最もだ。警視総監の息子ということで隠蔽されるとはいえ、確実に犯罪だというものはさすがに隠蔽はできなさそうなものだが…
「警視総監に裏社会との繋がりがわかった、としたらどうだ?」
「…つまり、何をしてもこっちが悪くなる…。スタンガンもまずいんじゃねぇのか?」
「そのへんは対策してある。な、冥賀」
「丸投げでしたがね。向こうが裏を使うならばこちらも使うだけのこと。時雨桜一族に後処理を依頼しました」
「じゃあ問題ないな」
時雨桜一族というのは、政府公認のマフィアのようなものだ
もちろん一般人には公表されていない。時雨桜一族の面々は全員、公安部特殊警察という扱いになっている
「…じゃあ、襲われたら思いっきりスタンガンする」
「そうしろそうしろ。厄介なのはそれと…まぁ、今はいい。時間だから行くぞ、お前らも帰った帰った」
零に急かされて、三人は職員室から出た
やることがないため、帰路につくことにして教室に戻るとそこには、目を疑うものがあった
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