第2話

昼休みが終わり、四時間目が始まった

教卓の前に立つのは零だ。数学教師は一日に同じクラスを2回指導する

数学Aと数学1の2つが一日に集約されるのだ

そしてそれが週に2回あるため、零とは4回も顔を合わせることになる

担任ということもあり、より多く顔を合わせるのだが

「…夜斗」

「なんだ」

小声で話しかけてきた唯利に、同じく小声で答える夜斗

さすがにフードは外しているが、猫耳パーカーを脱ぐことはない唯利が、夜斗に疑問を投げかける

「…なんであの先生にタメ口なの?」

「…ああ、最初は確かに混乱するよな。あいつの妹が隣のクラスにいるんだけど、妹と仲がよくてさ。昔から家族ぐるみの付き合いなんだ」

零と妹は八年離れている。そのためこういった、兄教師妹生徒が成り立つのだ

本来は担当学年に親族を配置しないのだが、零の妹は別の教師が数学担当のためこの配置が許されている

「…妹?」

「天血澪っていうんだ。幼馴染でもあるな」

「おい夜斗、お前俺の授業でイチャつくとはいい度胸だな。これ黒板に解け」

「うぐ…。いちゃついてるわけじゃねぇし…」

夜斗はいやいやながら前に出て、黒いボードに白いペンで問題を解いていく

チョークは体に悪いとPTAが文句を言ったため、この学校ではホワイトボードならぬブラックボードが使用されている

「終わった。あってるだろ?」

「厳密に言うならそれは簡易的な解き方だな。俺が採点なら丸にしてやるが、冥賀はバツにすると思うぞ」

冥賀というのはもう一人の数学教師だ

澪のクラスなどを担当している

零の大学時代の同級生ではあるものの、澪との関わりは全くないと言っても差し支えない

現に、澪と冥賀はこの春に初対面だったのだ

ちなみに夜斗の従兄である

「冥賀かぁ…。従兄だし担当にはなんねぇだろ」

「まぁな。席もどれ早く」

「解かせたのお前だろ!?」

夜斗は理不尽さに顔をしかめながら席に戻り、座った

「相変わらずね。けど、転校生といちゃついてるのはいただけないわ」

「いちゃついてねぇっての。また問題解かされるから、放課後に話そう」

「そうね」

クスクスと笑みを浮かべて、奏音が黒板に目を戻した

唯利は未だに頭上に「?」が浮かんでいそうな顔をしているが、夜斗には見えていなかった


そして放課後

「ということで唯利。学校を案内してやろう」

「…今から?」

「今からだ。奏音も付録するぞ」

「せめて夜斗だけ」

「あら、私がいたら問題かしら?」

「…別に。ただ人と話すの苦手だから…」

唯利がパーカーを被り、顔を隠すように手で引っ張った

「安心しろ、奏音は噛み付くようなやつじゃねぇから。多分…きっと…メイビー…」

「なんでだんだん自信が萎むのよ!」

奏音が叫び、零が補習室から顔を覗かせ、イチャつくなーと声をかけてくる

ここまではよくあることだ

「…そんなに時間は取らせない。何なら質問タイムを設けられるくらい時間に余裕をもたせる」

「…わかった。お手柔らかに、ね」

渋々といったように、唯利は受けた

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