Chocolate Days

本条真司

一枚目 転校生、巻き込まれる

第1話 転校生

冬風夜斗は、平日が嫌いだ

それは学生なら大方そうであろう。バイト学生なら尚の事だ

夜斗のクラスの黒板に貼り出されているのは、転校生が来るという通知

ただそれだけだ。しかしそれが、クラスの男子を湧き立たせる

「転校生如きでよくこんなにテンション上げられるなぁ…」

「子供ね。なんて、私たちが言えたことではないかしら」

幼馴染である九条奏音くじょうかのんが夜斗に笑顔を向けつつ話しかける

席は隣だ。くじ引きではなく、女子が隣に座る男子を選ぶ制度を採用しているため、毎回夜斗の隣は奏音になる

「そうだな…。転校生なんてもんに惹かれるほど若いわけじゃないが、別に老いてるわけでもない」

「私たちの世界には関係ないわ。夜斗に惚れでもしなければ、ね?」

「万一にもあり得んよ。どこの誰が神主の息子に惚れるんだ?」

「私かしら」

奏音がクスクスと笑うのを見て、自然と笑みが溢れる夜斗

「おーしバカ共席つけー」

教室の戸を開けて入ってきたのは、夜斗のクラス担任である天血零てんけつぜろ

謎の権力をもつ新任教師だ

「えー…。めんどくさいけどマニュアル通りにやるか。転校生を紹介します、入ってきてください」

(マニュアルなんてあんのか)

がらっと音を立ててドアを開け、転校生が教室に入ってきた

容姿端麗で猫耳パーカーを着た少女だ。髪色は茶色で、フードの隙間から胸元まで伸びている

桜嶺さくらみね唯利ゆいり、です。よろしく…」

テンションが低いものの、男たちは歓声を上げた

夜斗ともう一人を除いて

白鷺大貴しらさきだいきは冷静…じゃないな。あれは獲物を狙う獅子の目だ)

夜斗はそんなことを思いつつ、この様子なら自分に関わりはないだろうと決めつけて窓の外を眺めた

夜斗の席は最も窓に近い。そして最後尾から2番目だ

警戒されることは少なく、教師が後ろに来ることはまずない最高の場所である

「えー…。本来であればクラス委員長である白鷺に押し付けもとい頼むことではあるんだが、なんか頼みづらいから夜斗、やれ」

「何をだよ!つか白鷺でいいだろ!?」

「そうですよ先生!僕がやります!」

「却下だ。つか白鷺にそんな時間はないぞ?」

「へ?なんでですか?」

零は教卓に肘をついて、持ってきたプリントを目の前の白鷺に手渡す

「補習だ。数学だけ課題を出さないとはいい度胸してんなぁ?」

「あ…」

「つーわけで、夜斗。校内案内を頼んだ。あと暫く教科書が届かないからそのへんも上手くやれ」

「めんどくさがるんじゃねぇよ!」

「内申さげるぞ」

「謹んで受けさせていただきます」

夜斗は敬礼を返し、クソがと呟いた

「まぁそれに伴って席近いほうがいいだろうということで、夜斗の後ろに机と椅子を用意しておいたからそこに座って」

「はい。わかりました」

感情が薄い声で唯利が答え、荷物を片手に夜斗の後ろに座る

「よろしく、夜斗」

「いきなり名前呼びか…。ビビるぜ」

「苗字知らないし」

「まぁいいけども。よろしくな、唯利」

面白くない、といったように目を逸らす奏音

零はそれがわかっていたかのように奏音に目を向けて口端を僅かに持ち上げた

「じゃあショート始めるぞ。白鷺」

「はい。起立」

ホームルームが始まり、一週間の最初をスタートさせた

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