49《……ありがとう》
「お姉ちゃんッ!!!」
「セリカ!!!」
悲鳴と言っても差し支えないような声色でセリナが叫ぶ。ぼんやりと虚ろな瞳がセリナに向けられ、徐々にその目には光が宿っていった。
「……えリ…ナ……?………え、おおいうこと……?」
あまり呂律が回っていないのは当たり前か。1年も眠っていて普通に話せる方がびっくりする。だが、その声を聞いた刹那、セリナがわあわあと泣き声を上げながらセリカにしがみついた。か細い腕が戸惑いつつもしっかりと妹を抱き止め、背中をさする。
しばらくして、セリカが僕に気付いた。眉が明らかにひそめられる。まるで不審者を見るような反応。今日はさすがにその扱いが多過ぎる。内心泣き声を上げている僕を無頓着に眺め、かなり怪訝な顔をした後、その青白い顔に衝撃が走った。
「きゃ―――――――――――――!!!」
1年もの長い眠りに就いていたとは到底信じられないような大きな悲鳴。雪を避けて木々で休んでいた鳥達がばさばさと一斉に飛び立った。セリナが驚いて耳を塞ぐ。僕も思わず飛び上がった。だがセリカは、そんなことには全く見向きもせずに僕に震える指を差した。
「あっあの時の………!!!」
「セリカ!!」
僕も思わず彼女の名を力強く叫ぶ。……ああ、やっと会えた。ずっと探していて良かった。
「ぎゃ――――――――――――――!!」
「……へっ!?」
ところが僕が名を呼んだ瞬間、セリカがまた悲鳴を上げた。しかもさっきよりも大きい。いや、断末魔の叫びにも聞こえる。え?え?どういうこと?
がばっとセリカが顔を覆う。セリナがキッと僕を睨みつけた。今まで見た中で1番鬼のようなご尊顔をしていらっしゃる。
「あんたねぇ、お姉ちゃんに何したのよッ!?」
「いやいやいやいやいや!!!」
違う、断じて違う!!!きっとたぶん恐らく冤罪だあっ!!
「「………ちょっと、どうしたの!?」」
「「せっ、セリカちゃんっ!?」」」
僕が慌てふためいている間に、ただならぬ悲鳴を聞きつけた看護師さんたちが飛び込んできた。あれよあれよと言う間に病室から追い出される。
「………」
「……いや、あのさ、僕……」
無駄な弁解を試みる僕。我ながら勝算のなさに涙が出てくる。だが、容易に想像される罵声は飛んでこない。不思議に思い、そっとセリナの方を覗うと彼女が大粒の涙をこぼしていた。
「……えっ、ちょっ、セリナ……?」
「……ありがとう」
初めて聞いた、彼女の素直な謝辞。その5文字には、色々な意味が込められていた。涙の下にある顔はこぼれんばかりの笑顔で、今までで一番可愛らしかった。
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