43《私は、生きたくなっちゃった》

11月9日(金)

 おかしいな。私は、生きたくなっちゃった。 



 そこまで目を通したとき、思わず「え?」声が漏れた。この日までは、毎日死んでしまいたいと書かれ、僕自身も彼女がいつ死を選んでしまうのかが恐ろしくてずっと緊張し続けていた。


何があったんだ?



11月9日(金)

 おかしいな、私は、生きたくなっちゃった。今日なんか、最悪の日なのに。髪の毛、切られちゃったのに。なつみんさえも愛ちゃんに言われて私の髪を切ったのに。死んでしまいたいはずなのに。私は、生きなきゃ。じゃないと、あの男の子に申し訳ない。あの一言で、悪意にへし折れた私の心がすらりと伸びた。ありがとう。



 当たり前だが、この日記はセリカが誰かに読まれることを想定して書いているわけではないので、赤の他人である僕にはさっぱり分からない。だが、この日を境にセリカは明らかに変わった。ノートには負けん気が覗き、自分を鼓舞する言葉が綴られている。


11月12日(月)

 愛ちゃんに立ち向かった。あなたのしている事は間違っているって叫んだ。汚れた雑巾を愛ちゃんに投げ返した。かなりびっくりしたみたい。私は、もう諦めないって決めたの。あなた達の思い通りにはならないから。


11月16日(金)

 自分でもびっくり。すごく。まさか、愛ちゃんの顔を叩き返すなんて。先にアクションを起こしてきたのはあっちとはいえ、我ながら会心の一撃だった。私、結構すごいな……なんちゃって。



 思わずふふと笑いが漏れた。セリカも、相手を叩き返したのか。僕たち、正反対だと思っていたけど、案外似たもの同士だな。


 学校での出来事は明らかに辛く、重いのに、それを敢えてコミカルに語る文体に救われる。まるで彼女と話しているような。指も先程のように震えてなどいない。12月に入ってもそれは続いた。

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