42《死んでしまいたい》

 次の日からの日記は、僕の想像以上に酷いいじめの記録だった。陰湿な悪口、空気扱いされる、教科書を破かれる、お金をたかられる、トイレに閉じこめられる、上から水をかけられる……。そして、女子の方が陰湿で、隠すのが上手いことを知った。セリカが被害を訴えても、上手く隠蔽し証拠を残させなかった。女子校で男子の目を気にしなくていいからか、僕とは比べ物にならない程むごい目に遭っていた。


 セリカの気持ちが痛い程良く分かった。誰も助けてくれない、あの絶望。彼女は、毎日無言で耐え続けていた。一人ぼっちという地獄を終え、苦しい心をノートに吐露する日々。


……あんなに明るい彼女とて、どうしてこの地獄から逃れようと考えない?


いや、どうして自殺を考えない?

こんな1番簡単な方法を、考えないはずがないだろう?



11月1日(木)

 あの日から、なつみんは学校に来ていない。愛子を止めたことはこれっぽっちも後悔などしてない。でも、


死んでしまいたい





……乱れ、水の跡が分かる文字。

彼女の絶望が、1年の時を経た今でも伝わってくる。僕の目からも涙がこぼれた。転がり落ちた塩水は、ノートに新たな染みを作る。丸い文字が滲んだ。ページをめくる指がみっともない程震える。 

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