41《愛ちゃんのターゲットは、私になった》

9月12日(金)

 今日は、転校生の子が来た!東京から引っ越してきたんだって。名前は河田菜摘ちゃん。隣の席だ!!緊張していたみたいだけど、話しかけた時の笑顔が可愛かった!!皆で仲良くしていきたいな。


9月15日(月)

 今日は放課後皆で歓迎会をした!学校帰りのカラオケは禁止だけど、まあいいや。すごく楽しかった。皆で菜摘ちゃんのあだ名を決めた。なつみん!ちょっと短絡的だけど気に入ってくれてよかった。なつみん、すごく歌が上手だった!!また行きたいな。


9月16日(火)

 今日は数学の小テストだった〰。1問間違えちゃった。悔しい!!もっと頑張らなきゃ!!なつみんは満点だった!!頭が良さそうだなって思ってたけどその通りだったな。授業終わった後、間違えたとこ教えてもらった。すごく分かりやすかった〜。ありがとう!!



 中身は日記だった。ちまちまと机に向かってノートを開くセリカの姿が思い浮かぶ。セリカらしい、明るい日記。最初は、転校生の菜摘ちゃんと仲良くなっていく日々が記されている。だが、途中からその楽しげな様子が徐々に不穏の色が忍び寄って行く。




10月5日(木)

 愛ちゃんがなつみんのことを陰で馬鹿にしていた。体育のあとの更衣室。なつみんが来る前。東京から来たからってちょっと調子乗ってるよね、うざくない?って。全然そんな風に思えないけど。やだな、愛ちゃん怒るとネチネチして長いんだよな。早く終わると良いんだけど。


10月11日(水)

 皆の雰囲気が悪い。愛ちゃんがなつみんは東京でいろいろ不良みたいなことしていられなくなったから転入して来たって噂を流したから。そんなの嘘なのに。一人暮らしのおばあちゃんが倒れて心配だから、一緒に住むことにしたんだって言ってたのに。なつみんの耳にまで届いていないことが救いだ。


10月16日(月)

 なつみんが愛ちゃんにいじめられている。愛ちゃんはいじりって言っているけど、そんなことは無い。あれはいじめだ。なつみんは苦しそうに笑っているけど、トイレで泣いていた。私は話を聞くことすら出来なかった。声を掛けられなかった。最低だ。


10月20日(金)

 なつみんの上靴が無くなった。二人でずっと探してたら、焼却炉の上に泥だらけで捨ててあった。なつみん泣いてた。


 

 ……この日の文字は滲んでいた。おそらく、セリカが書きながら泣いたのだろう。人の気持ちをとても考えるセリカだからこそ、悔しく、自分を責めてしまっている。




10月25日(木)

 泣いているなつみんを、愛ちゃんとサーヤとりりで笑っていた。不良はここには相応しくないから帰れって言っていた。教科書をビリビリに切られてた。何であんなことできるんだろう。先生に後でこっそり言ってみたが、曖昧な顔をされた。愛ちゃんは、風間家の大切なご令嬢だから、風間家は学園に多額の寄付金を払ってるからって。信じられない。そんな、物語の中でしかお目にかかれないようなことってあるんだろうか。悔しい。




 セリカの悲鳴が綴られている。どこの世界にも、こう言った奴っているのだな。あんな育ちの良さそうな学校でもあるのだから、いじめ根絶には至らない訳だ。


 そう、ぎりと奥歯を噛み締め、次の日を読もうとしたときに何かが引っ掛かった。もう一度25日の日記を読み直す。


……風間家?……愛ちゃん?


 気づいたときに、ノートを取り落としそうになった。風間という名字は、そうそう居るわけではない。少なくとも僕の街では。しかも、金持ちの風間といって僕が知っている人はただ一人。風間清正しかいない。そう言えば、風間には姉が一人いると聞いたことがあるような気がする。この、愛ちゃんとやらは風間の姉なのか……?


 逸る気持ちを抑え、次の日記に目を滑らす。そこで、事件が起きていた。



10月26日(金)

 愛ちゃんに言ってしまった。それはおかしいんじゃないかって。なんでそんなことするんだって。愛ちゃんすごく怒ってた。不良がここにいるのは相応しくないから愛が制裁を下してるんだって。神様のつもりなんだろうか。最後に、覚悟しておけよって睨まれた。月曜が、怖い。



 文字が震えていた。セリカの恐怖が分かる。しかし、セリカは勇気を振り絞って立ち向かったのだろう。僕がその立場なら、見て見ぬ振りをしてしまうかもしれない。



10月29日(月)

 愛ちゃんのターゲットは、私になった。




 この日は、たった一文しか書かれていなかった。だが短い一文で、彼女がどうなったのかを痛いほど知った。

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