40《……お姉ちゃんはね、》
「……お姉ちゃんはね、」
セリナが唐突に口を開く。痛みをこらえるような顔で、セリカを眺めながら。
返事が欲しいわけではないことは明白なので、黙って耳を傾ける。
「お姉ちゃんは、一年前まで同じ高校の3年生だった。美人で優しくて頭が良くて、本当に本当に自慢の姉だった。でもね、ある日から、酷いいじめにあっていたの」
その切れ切れな言葉に耳を疑う。あの、明るく快活なセリカがいじめられていた?そんな、まさか。
「本当に、本当に酷いいじめだった」
セリナの大きな目から、泉のようにこんこんと涙が湧き出た。こすってもこすっても追い付かない。堪えきれず小さく嗚咽が漏れる。
続きを促したいが、そんな酷なことはできない。どう慰めて良いのか分からない。目の前で女の子が泣いているのを見るのは初めてだった。
苦心の策でポケットからハンカチを出しそっと渡す。セリナはひったくるようにしてそれで目を抑えた。良かった、ハンカチをまだ使っていなくて。
セリナは顔を覆ったまま立ち上がり、ベッドの横の造り付けの棚からノートを取り出した。そのまま無言で僕に差し出す。
「え、読めってこと?」
戸惑う僕にノートがぐいぐいと押し付けられる。こくこくと頷くセリナの気迫に押され、恐る恐る受け取った。
何の変哲も無い水色の大学ノート。表紙には何も書かれていない。緊張しながらぺらりとめくると、びっしりと細かな文字で埋め尽くされていた。
……見覚えのある字。セリカの字だった。小さくて丸っこい字。
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