39《ほらね、言った通りでしょ》

「ほらね、言った通りでしょ」


 いつの間にか隣にいたセリナがぽつりと呟く。怒っているような、諦めたような声。


――……何も言えない。


 はあっとまた一つため息を付き、ばたばたと音を立てながらまたベッドに近づく。


……そのセリナの行動を、僕は見守るしかなかった。


「おねえちゃーん、ひさしぶり。今日の調子はどう?」


 先程の投げやりな態度とは裏腹に、優しくセリカに話しかける。だがセリカはピクリとも動かない。セリナがセリカの顔を覗き込み、そっと頬を突く。


「お姉ちゃん、ねえ。目、開けてよ」


 その祈るような声にもセリカは答えない。答える者のいない嘆願の言葉は、白く冷たいリノリウムの空間を虚しく漂い、やがて消えていく。


 セリナの目の端が光った。ぽろりと水がこぼれ、やや黄ばんだ布団に染みを作る。それでもセリカは身じろぎ一つしない。長いまつ毛が頬に暗い影を落としている。


「……分かったでしょう?植物人間なの。ずぅっと前から」


 白い指が目元を乱暴に拭う。今にも折れそうな程細い。涙が四方に飛び散った。


ショクブツニンゲン、ショクブツニンゲン、しょくぶつにんげん、植物人間。


 単語自体は知っている。だが、変換されるまでに長い時間がかかった。セリカは、植物人間だと言うのか。そんな、馬鹿な。

否定するも弱々しい。百聞は一見にしかずというが、まさにこの状態か。どうでもいいことを想像して一人で自嘲する。本当に脳のキャパを超えているらしい。


「……セリカ?」


 僕の放った言葉は当然のように消えていく。誰も動かず、誰も何言わない病室で言葉は正に異質そのものだった。

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