38《……え》
――………セリカは、ベッドの上に静かに横たわっていた。
「……え」
思わす声が漏れた。竦んだように足が止まる。そのまま、次の一歩が踏み出せない。僕の凍りついた表情は元に戻らない。そのくせ、瞬き一つ出来なかった。ただただベッドの上の彼女を見つめる。
後ろでセリナのため息が聞こえた。
それに挑むようにして強張った足を無理矢理動かす。動け動け。
ただ眠っているように見えた。声をかけたらパチリとその大きな目を開けてくれるような気さえする。
だが、彼女に取り付けられたチューブ等の器具の物々しさがそうではないことを雄弁に物語っていた。
ピコンピコンと機械のわずかな音。それと、ごうごうという風のような音。何の音だろうと働かない頭で考え、しばらくしてから風ではなく自分の息の音だということに気が付いた。
気を抜くとすぐ床に張り付いたように動かなくなる足を叱りつけながら、セリカの所まで向かう。
セリカだった。一筋の乱れもない長い髪の毛。色を失った唇。血の気のないなめらかな頬。まるで陶器のような。本当にわずかに、気をつけなければわからないほど小さく胸が上下していることが、彼女が生きているということの唯一の証明だった。そうでければ、精巧に作られた大理石の像だとさえ思ったかもしれない。
彼女がこの状態になったのは、昨日今日のことではないことは明らかだった。ツンとした消毒液や薬品の匂い、部屋の隅に溜まったわずかな埃、水を吸い尽くし枯れかけの花束の花瓶、お見舞い品のないテーブル。そのくたびれた雰囲気全てにセリカは全く違和感なく溶け込んでいた。部屋もセリカも、同じようにくすんでいた。ほんの微かに饐えた匂いがした。
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