34《セ・リ・ナですけどお忘れですかぁ!?》

――……奇妙な時間だった。



 セリカ妹の指示で乗った電車の中は混んでいた。どこに座ればいいのか皆目見当もつかなかったが、空いている席は彼女の隣しかない。立っていようと思ったが、彼女の「他の人の邪魔になってるでしょ、そんなことも分からないの?」と言う魔女のように冷たい声に促され(罵倒され?)、恐る恐る隣に浅く腰を下ろした。彼女はこちらをちらとも見なかった。不貞腐れたようにそっぽを向いている。


 電車の中では、お互いの名前を自己紹介したっきり何も話さなかった。


 キヨノセリナ。漢字にすると清野芹菜というらしい。年は16歳。セリカとは2つ離れていると言うことか。


 僕が名乗ったときは明らかに胡散臭そうな顔をされた。高校名が本当か疑っていたらしく、結局学生証を見せて何とか信じてもらった。


 うららかな午後の陽気は冬だというのにぽかぽかと暖かかった。その上、電車内は暖房も程よく効いていて心地良かった。

 


「……ル……………カル……ちょっと起きなさいよこの変態ッ!」



「………ふぇ?………ひゃあっ」


 怒号と自分の情けない悲鳴で目が覚めると、至近距離にセリカの顔があった。夢……?


「……え……?何で?セリカ……?」


 薄ぼんやりとした頭で夢うつつに答えると、セリカは鬼のような形相でまくし立てた。


「頭のネジを巻き返しなさいよッ、ほんとにあんたその高校なの!?あの学生証は偽証だったわけ!?セ・リ・ナですけどお忘れですかぁ!?」


 喉がヒッと鳴った。あぁそうだ、妹だった。……怖い。


 恐怖に打ち震えながら体を起こすと、思いっきりセリナの肩にもたれかかって寝ていたことに気づいた。


……初対面の女の子に堂々と頭を預けて寝ていたなんて、確かに変態と言われても文句は言えまい。


「あっ、ごめん………」


「あんたこの局面で良く寝れるわよねー。ほんとその無神経さっていうか命知らずっぷりに尊敬すら覚えるわ」


 セリカの妹とは思えない皮肉が口から飛び出している。なんだこの毒舌娘は。僕のほうが一応先輩だぞっ!?何て言っても悪いのは僕なので逆らわずにしおらしく謝る。


「……誠に申し訳ありませんでした」


「ん」


 年配者の誠意を込めた謝罪にその反応。まさかの一文字。ほんとにこいつはセリカの妹なのか?あの優しげなセリカとは似ても似つかない。ドッキリカメラを探してみるが、セリナに生ゴミでも見るかのような顔で舌打ちをされたので敢え無く断念する。

考えても仕方がないのでとりあえず放っておいた。風間に比べるまでもないが、奴よりはマシだと思うしかない。無論、奴に比べたら皆天使に見える。

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