31《この鈍足野郎っ!》
「先生と警備員さん呼んできたわよー!変態をとっ捕まえてもらうわ!!!!」
何やら血気盛んな声が飛び込んできた。
ギクリとして校舎の方を向くと、先程の少々お言葉の悪い女子がスカートがはためくのも構わず駆けてくる。そのまた後ろには、いかにも体育の先生っぽい若い男性教師と、これまた屈曲な制服の男性(おそらく警備員)が目を怒らせて猪のように猛然と向かって来ている。
――……まずい、あれに捕まったらそもそも生命が維持できる保証はないっ!!
しかもこの局面、僕はセリカ妹が倒れないように支えてるのだ。これは傍から見てもどこから見ても間違いなく僕は変態だぁっ!!
「……こっち来てっ!それともあの人たちに捕まりたいのっ!?」
慌てふためいている僕の手を、セリカ妹が強く引っ張った。……柔らかな手の感触は、セリカだった。
ぎょっとする間もなくセリカ妹に引っ張られ校門を出る。
耳が痛い。女子たちが大声で悲鳴を上げている。大人の怒号が聞こえる。一瞬怯んだ僕を叱りつけるように至近距離でセリカ妹が怒鳴る。
「茜っ、あかね!!!ごめん、先に帰ってて!!私は大丈夫だからっ!!」
先程セリカ妹の隣にいた少女が、顔を真っ青にして頷く。そりゃそうだろう、一緒に帰れるわけがない。
「ちょっと、速く走ってよっ!この鈍足野郎っ!」
待て待て、女子に鈍足野郎と言われては男子の沽券に関わる。……なんて思っても、情けないことにセリカ妹の方が明らかに足は速い。僕は手を引かれるまま足をもつれさせないようにするので精一杯だ。
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