24《……これっ、て、》

――……空気が、止まった。


 セリカが息を飲み、何かを言おうとするように口を開けたが、言葉は何も出てこないようだった。




 無言の間にお互いの目を見つめ合う。

いつも輝いているその目は、明らかな怯えを含んでいた。

やがて、諦めに似た弱々しい光が灯る。



ただただ辺りを沈黙が支配していた。






 鳥の大群が、かしましい声を上げながら飛び去った。




 ビクリと体を震わせ、セリカが息を吐く。

ようやくもらえた契機に、やっと声を絞り出した。




「…やっだなあヒカル、急にどうしたの?」



いつもの、微かに笑いを含んだような甘い声。だが、いつもと明らかに違う証拠に、動揺したように震えている。



「ちょっと、これを見てほしい」


 僕は、スマホを取り出した。

セリカの前で使うのは初めてだ。なんとなく、そういうのが好きじゃなさそうな気がしていた。



まさしく恐る恐ると言った態でセリカが画面を覗き込む。


「……これっ、て、」


僕が画面に映し出したのは、裏山の写真だった。


実は、僕はさっき写真を撮っていた。

セリカを写した写真を。

きちんといる位置を目で見て確かめ、いざ画面を覗き込むと、



セリカは、いなかった。



なんのことのない、裏山の風景。

そこにいるはずのセリカは、写っていない。



「さっき、写したんだ」


 セリカは俯き小さく唇を噛む。

そのあまりにも切なそうな表情に、今更ながら問い詰めていることに罪悪感を感じた。

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