20《星が降ってきてるみたいじゃない?》
次の日からの僕へのいじめは一層陰湿に、一層手段を選ばなくなった。
机の上にはどこから持ってきたのか白い花が活けられた花瓶が置かれたし、当然のように持ち物は全て焼却炉に捨てられた。
でも。
今までと違うのは、僕がその全てに怒り狂うようになったことだ。
何かが起こる度に僕は風間にやめろと怒鳴りつけ、当然風間もそれに怒鳴り返す。もう取り巻き達も腰が引けたのか、僕の相手は風間だけだった。
心が折れることも当たり前にあったが、それでも僕は奴らに歯向かい続けた。負けるな負けるな。もともと血の気の多い方では無かったが、歯を食いしばって懸命に抗い続けた。
心の支えはやはりセリカ。
針のむしろのような学校が終わると、僕は裏山に通い続けた。
「セリカ」
今日、セリカは淡いエメラルドグリーンのマフラーをしていた。確かに今日は寒い。なので今日はココアを買って来た。自動販売機から出したてなのでかなり熱い。ほかほかとした缶を手の上で転がしながら歩み寄った。
最近僕らは毎日一緒に勉強をしている。
高校3年生の12月。年が開ければ、受験が待ち構えている。
僕は大学に行く予定はないが、セリカはこの街にある国立大学を受験するらしい。セリカの学力からすればそんなにレベルは高くないようが、その大学に勤めているある教授の授業を受けたいそうだ。
「あっ、ヒカル〜」
数学のワークを開いていたセリカが白い息を吐いた。
「どう?首尾は」
「うーんそうだねぇ、まあまあかな」
と、言うことはかなり良さげだ。一緒に勉強をしていて分かったことだが、セリカは実際かなり頭が良い。
「難しそうだね」
相手も勉強している手前、僕も一応単語帳をぺらぺらとめくるが、目に入る英単語は少しも頭に入ってこない。受験しないことが引け目になって、申し訳ないがあまり勉強に身が入らなかった。
僕のクラスで大学受験をしないのは僕だけだ。僕だって大学に進みたい。自惚れじゃないが、どこかの国公立に引っ掛かるぐらいの学力は持っていると思う。小さい頃から勉強だけは頑張っていた。テストで良い点を取ると、気まぐれだが母親はほめてくれた。そのことが、唯一母に認められていると感じていた。
だが、ただただ純粋にお金がない。奨学金を借りてもそれを返せる見込みはない。もうとっくに諦めているが少々悔しい。
一口飲んだココアの懐かしい甘さが胸に染みた。
「ねえ見てヒカル、そらっそらっ!!」
見上げると、空からちょうど細かな雪が降ってきたところだった。
薄い雲の奥には、これまた満天の星。雪が降っているのに空から星が見えるのは珍しい。
まるでまるで、星が雪に変わったようだった。ちらちらと儚く舞う雪と光り輝く星。
「……うわぁ、すごいな」
「綺麗……ねえ、星が降ってきてるみたいじゃない?」
ふと、永遠に時間が止まればいいと思った。雪と、星と、隣には笑顔のセリカ。
未来など要らないから、これだけがあればいいのにとさえ思った。
――……一生忘れることが無いだろうと自然に思えるような夜だった。
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