19《くまちゃんは偉大です》
「はい、いいよ、おっしまーい」
「ありがとう」
消毒液を塗り、絆創膏をべたりと貼り付けたセリカがにっこり笑って背中を軽く叩いた。
一瞬の沈黙。
「…あの、あのさ、昨日はご………」
「すっごーいヒカル!!!!まさか、ほんとに殴りつけるとは思わなかったよ!!!」
言うなりセリカが僕の首に弾丸のように抱きついて来た。その勢いで僕はぐらりとよろけたが何とか抱き止める。セリカは温かくて、髪からはシャンプーのいい香りがした。
「ねっ、ねっ、がんばったねぇ!!!すごいね、風間くんの顔にヒット!だったんでしょっ!!!」
「……人殴ったの初めてだけどね」
ぼそりと呟くがたぶんセリカの耳に届いていない。
「会心の一撃だったね!!!もう、ほんとほんと!!」
だいぶ興奮しているようだ。超至近距離でまくし立てているが、たぶんそのことにも気付いていない。気恥ずかしいのは僕だけか。ただ、しゃべりながら僕の肩をぶんぶん揺らすのはやめてほしい。僕は車酔いしやすい質なんだっ!
「まぁ、確かに殴るのは良い悪いで言うと悪いんだろうけど…、」
「でも、やったね!!」
…あぁもう、かわいいなあ
なんて、自然に思っちゃうような笑顔でセリカが笑った。その表情にちょっとだけドキッとして、でもそのドキッとしたことを何となくバレてしまったような気持ちになって、僕は聞かれてないのにベラベラとまくし立てた。
「いやもう何かすごい殴り合っちゃって、だって何というかめちゃくちゃ腹立っちゃったからさ、何だろ、ほら、あのくまのおかげだよやっぱり。何ていうかあれだな、確かに勇気が出るくまなんだな、すごいな」
「そ!!くまちゃんは偉大です」
動揺していたので異常に「何」というワードを多用してしまったが、まあしょうがない。明らかに不自然だったが、いたずらっぽく笑ってセリカが囁き返してくれた。
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