18《なんかそこだけ聞くと青春って感じだねぇ》

「うわぁ、すごいね、それで殴り合ったのっ!?」


セリカがベタベタと僕に湿布だの絆創膏だのを貼り付けながら驚いた。


「つつつ……。まぁ、うん。そうだよ」


顔をしかめる僕にお構いなしに消毒液を塗る。手早いが痛い。ものすごく痛い。染みる。


「うっわー、なんかそこだけ聞くと青春って感じだねぇ」


 至極憤慨なことを呟いてセリカが笑った。

確かに我ながらドラマチックなことをしてのけたと思う。というか、どこのベタな漫画かというような光景だった。


――……自分をいじめたやつと拳を交わしあっただなんて!


 言葉だけ並べ立てるとなかなか勇ましい。

まあ、その後にお約束の分かり合うっていう展開は残念ながら皆無だった。もちろん、今更ゴメンネなんて言われても死んでも許せないが。


 残ったのは明らかな風間の憎悪の目線。

明日からの日常は壊れたことを僕に意識させていた。

――……いや、そもそも日常なんて無いのか。


 あの後、僕と風間は派手に殴り合った。お互い手加減0の直球勝負だ。あまりの剣幕にビビったらしいクラスの女子が先生を呼んできて激しく怒られた。僕だけ。とは言え、僕も傷だらけだったので風間も少しは注意されていた。今更ながらその不公平さに怒りを覚えるが、風間の鼻ヅラを思いっ切り殴れたのでまあ良しとしよう。奴は何と鼻血ブーだ、ブーっ!もちろん僕の顔も人のことを言えないぐらい腫れ上がってアンパンマンのようだが。


 反省文10枚書くなどかなりの時間を掛けてこってりと絞られたが、僕の意識はただ一つ。今までに感じたことの無い達成感だけだった。


 帰り道に無傷のくまも拾ってこれたし(風間たちはすっかりくまの存在を忘れていたらしい)、もう大満足だ。体中が痛いけど。


 鼻歌でも歌いそうなぐらい気持ちが高揚した僕は、痛みに引きずりそうな体に鞭打ってスキップしながら帰った。


 夜になって、さすがに昨日の今日だからセリカはいないかもとドキドキしたが、恥を忍び恐る恐る行ってみたらセリカはいつも通り何も無かったかのようにいた。

そして、傷・痣だらけの僕を見たセリカは悲鳴を上げ、早急に手当の道具を取りに戻って今に至る。大急ぎで帰ってきたらしいのでいつもなら15分かかるところ、10分で帰ってきた。よほど走ったのかもしれない。白い額に茶色い前髪がわずかに張り付いている。


 その、息を切らすぐらい一生懸命になってくれたことが嬉しい、だなんて。


僕は何を考えているのかと密かに心の中で自分を叱りつけた。

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