17《お前なんか怖くない、風間っ!!!》

「「おっおい清正ッ!!」」

「「大丈夫か!?」」


風間は取り巻きを振り払い、僕を睨みつけた。その強さに不本意だが慄く。


「お前、今自分が何したかわかってんだな?いい度胸だ。褒めてやるよ」


 長くのばしたキザったらしい前髪の下から覗く、昏い光を孕んだ瞳。

今までその目に勝てた事はない。

正直、今すぐにでもまた逃げ出したい。

どうすればいいのかは分かってる。

ごめんなさいと平謝りし土下座でもすればいい。たぶん、酷く殴られるだろうけど、立ち向かうよりは軽く済む。


だが。

絶対に引きたくなかった。

ここで引けば、僕は間違っていたと認めることになる。そんなことは有り得ない。確かに暴力はいけないことだ。でも、僕が引いたら、セリカは奴らに侮辱されたままだ。


そんなんじゃ、セリカに合わせる顔が無い。


「お前、明日から覚悟しろよ?この俺を怒らせたんだから、それぐらい分かってんだろ」


風間はゆっくりと立ち上がった。

そして、拳を握る。


殴る気か。って最初に殴りつけたのは僕だけど。

いいよもう、やってやる。


僕も心を決めて風間に対峙した。

その様子に、風間の腰巾着どもがまたヒッと息を飲む。ご親切にも一人がやめろやめろと恐怖に満ちた目と口パクで勧めてくる。何となくその顔がコミカルで、僕はニヤリと笑い返してやった。僕に退却を勧めたやつはもう世界の終わりだと言わんばかりに天を仰いだ。


 うん、僕だって正気の沙汰じゃないと思う。がっしりとして背の高いサッカー部の風間と、ひょろひょろ帰宅部である僕が喧嘩とか頭がトチ狂っているとしか思えない。実際周りも未知の地球外生命体を見るような顔で様子をうかがっている。


 漫画など空想の世界ではこういうときに主人公は敵に勝つ。僕はいつもおかしいと思ってた。なぜ勝ち目のない戦いに挑むのかと。そしてどうして勝つのかと。ようやく分かった気がした。誰かの為だなんて大層なお題目はない。僕だって、セリカの為じゃない。このままだとセリカに合わせる顔が無いという、あくまで利己的な感情の為だ。もちろん、これは現実なので勝つということはさらさら期待してないが。


「んだよ、やる気かよ」


 風間がわずかに眉を寄せたがすぐにニタリと笑った。


 やばい、コイツらの目は据わっちゃってるよ。なんて声が聞こえてきた。ギャラリーがまるで自分の前に風間がいるかのように死にそうな顔をする。


……お互いちょっと普通じゃない精神状態であることは分かってる。いやいや、でも、やつ素面で向かえるかっ!


「おっもしれーじゃん、覚悟しとけよッ!?」


「お前なんか怖くない、風間っ!!!」


……セリカが聞いたらちょっとダサいって言いそうな言葉で僕は殴りかかった。

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