13《うっわー、必死じゃん?そんなに大事なものなんだ?》
「おい、メガネ、なんかかわいーもん持ってんじゃん。ポケットから落ちちゃったぜ?」
ギクッとして後ろを振り返ると、風間がニヤニヤと笑いながら赤い何かを床からつまみ上げた。
それは、
「へぇー?なになに、くまのぬいぐるみぃ?かっわいいねぇー、あれ、もしかして、メガネ君にも春が来たのかなあ?カノジョ、紹介してよ」
風間は整った顔を醜く歪めて笑い、囃し立てた。周りも低俗さの教科書みたいな歓声を上げ、僕を囲む。
「…かっ、返せよっ!」
我に返った僕が慌ててくまも奪い取ろうと手を伸ばすが、すかさず風間は高く手を手を挙げ取れないようにする。
――……後から思えば、僕が風間に歯向かったのは初めてかもしれなかった。
「うっわー、必死じゃん?そんなに大事なものなんだ?いやー、お前のカノジョだったらさぞかわいいんだろな、でぶ?それとも同じような貧相メガネ顔か?きっと暗ーい顔してんだろな、見てみてーなあ」
なぶってるとしか思えない声色で風間がひょいひょいと僕の腕を器用に避け続けた。
「…いいから、返せってばっ!」
必死と言われようがどうでも良かった。僕を罵るのなら構わない。勝手にすればいい。だが、セリカを貶めるのだけは我慢がならなかった。おそらく、昨日もらってポケットに突っ込んでおいたままになっていたのだろう。
それでも、これはセリカがくれた大切な物なのだ。風間なんかに触られたくない。汚すな、僕らの思い出を。
「うっせーな、見てて気持ちわりぃんだよ、お前なんかに彼女なんて出来る訳ねえだろ!?100年早いわっ」
あまりにも僕が抵抗することに腹立たしく思ったのか、苛立ちを隠さなくなった声で風間は吐き捨てた。
面倒くさそうに僕を睨む。
そして。
風間は、大きく腕を振ってくまを窓の方に放り投げた。
窓は開いていた。
醜い風間の手から離れた想いの詰まったくまは、美しい曲線を描いて外に落ちていった。
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