12《……ごめん、セリカ》
「はぁっはあっ…」
裏山から一気に走ってきた僕は、家の前で呼吸を整えた。
また、逃げてしまった。
しかも、親身になってくれたセリカを傷つけて。
サイテーだ。
家に入って鏡を覗き込むと、ひどい顔をしていた。
「……ごめん、セリカ」
気が付くと、頬に涙が伝っていた。止まる気配も無くはらはらと静かに流れ続ける。
……傷付けた僕がこうなるのは間違っている。
僕は、明滅する蛍光灯の下、洗面台にもたれて泣いた。
朝になった。目覚めなければいいのにとかなり真剣に昨晩祈ったが、もちろん叶うわけもない。
あんなこと言って、セリカがもう僕の味方でいてくれることはないだろう。
一人ぼっちにまた元通り。なんの事はない、1ヶ月前まではそうだったのだから。
と、せいぜい強がってみても虚しい。
懸命に重い足を動かしてキッチンに行くが、食欲はない。食べ物のことを考えると吐き気が込み上げてきたので無言で省略を決め、身支度をして家を出た。
朝早くに家を出たおかげで、やつらには会わずに済んだ。とはいえ、クラスが同じなので被害に遭うのがほんの少し遅くなるだけだが。
学校に着いたが、教室にはまだ誰も来ていなかった。することも無いのでぼんやりと窓の外を眺める。
他のクラスメイトはよく勉強を殺気立ってしているが僕はしない。大学に行けるようなお金は家にはないし、あの母親が出すとは思えない。
今日、風間が風邪を引いて休めばいいのになんてまた当てもなく願ってみるが、祈りの言葉をつぶやかないうちに窓からやつらの姿を見つけてしまった。見たところ、とても元気そうだ。
どこか隠れるところを探すが、リュックの中の荷物を机の中に入れてしまったので諦めるしかない。戻したら間に合わないだろう。
今日も長い一日が、始まる。
今日もなかなかひどかった。僕の財布のお金はわずかしか入れてなかったのだが全部たかられた。体操服に書道の墨をかけられ、教科書をカッターでずたずたにされた。授業中、背中にバカという貼り紙がしてあるのに気づかず黒板に答えを書いてしまい、皆に笑われた。あの冷笑。思い出すだけで胸が冷える。教師は見ないフリ。気づかないフリ。誰も助ける人はいない。
満身創痍で放課後を迎え、さらなる被害を受けないうちにさっさと帰ろうとしていた。
その時。
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