11《……立ち向かえだなんて、無責任だ》

「……立ち向かえだなんて、無責任だ」


 セリカが何か諭そうとして息を吸い込んだ音がした。僕は、やっぱり顔を上げられないままだ。そのまま、かぶせるようにして呟く。


「分かってる。そんなこと分かってる。僕が弱虫なことも、皆分かってる。でも、僕は怖い」


「無理だよ、そんなこと。できるなら苦労しない。それに、」


「君は、いじめられたことがないからそんなこと言えるんだ。そりゃあ、君は何でも言えるよな、僕じゃないから。僕がもっといじめられても君には関係ない。痛くも痒くもないんだろ?僕がどんなに辛いか、やっぱりわからないんだ。それなのに、もっと苦しめという。ほんとに、ほんとにそれで風間はやめるの?…もっといじめられるだけってことが、どうして分からないんだよ」


 怒涛のようにこみ上げる黒い言葉。それを吐く僕は何て醜いんだろうとぼんやりとした頭で考える。


 でも僕はもう止まることはできない。セリカに1度も口を挟ませる機会を与えずに、一気に言い募る。


 そして、そのままゆらりと立ち上がり、一目散に走って逃げた。


……ちらりと視界の隅に入ったセリカは、何か言いたげな、そして、酷く傷ついた顔をしていた。

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