5《私は、ヒカルと話したい》
「たしかにそうだよね、星と比べたらちっぽけでも、私達は私達なりにちっぽけでも悩んでるんだもん。ごめんね、ちっぽけなんて言って。悩みを否定した訳じゃないの。ごめんね」
その言葉にはっと我に返った。
そうだ、その通りだ。僕は死ななかった。と言うことは、明日の学校でもまたいじめられるんだ―…。
考えるだけで震えが止まらない。息が詰まる。心臓が大きく打つ星を見たところで、僕の日常には何も変わらない。僕が感動したところで、いじめる奴らが改心することはない。
「どうしたの?」
僕のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、セリカが僕の顔を覗き込んできた。
「…ねえ、明日もここで会おう?大丈夫、私はヒカルの味方だからね」
「みか…た…?」
何て心強くて温かい言葉。
だが、今の僕にはその言葉を純粋に受け取ることはできなかった。
実は、過去にもクラスメイトの何人かに同じ言葉を言われたことがある。
「いつもおかしいと思ってた。俺、高橋の味方だよ」
「光君は悪くないよ、私、味方だから」
何度その言葉に甘い期待を抱いただろう、何度その言葉に胸を躍らせただろう。
最初こそは、彼らも頑張ってかばってくれたり、先生に相談したりしてくれた。
だが、次第に奴らの陰湿な嫌がらせによってまた僕から離れていく。
…期待した分だけ、失望は大きい。
所詮、人は皆自分が可愛いのだ。もちろん僕も。
セリカも同じだろう。確かに、今までに会った人の中では1番寄り添ってくれているけど、他人であることには変わりがない。
だが、セリカの方を向いたとき、驚いた。意志の強そうな、大きな目。
真っ直ぐに、僕の目を見つめている。
「だから、死んじゃだめ。死んでいじめっ子とかお母さんに復讐しようとしたって、それができたって、ヒカルが死んでいたら分からないんだよ?その人達が罰を受けたって、ヒカルはこの世にいないのなら、そんなの、意味が無いんだからっ!」
「ヒカルはさっき、僕なんかを必要としている人はいないって言ってたよね?
そんなことない。私は、ヒカルと話したい。
それって、必要としているってことだよね?」
風が吹いた。木々がざわめく。
とても冷たい風だったが、不思議と寒くなかった。秋のはずなのに、春風が吹いたようだった。
信じて、いいのだろうか。
本当に、いいのだろうか。
「…ありがとう」
僕は、やっとの思いでそう呟いた。
本日2度目の涙が頬を伝った。
ぼたぼたと枯れ葉の上に落ちて行く。
セリカはまた背中をなでてくれた。
手のひらから、彼女の優しい温もりが伝わってくるようだった。
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