3《…僕なんかを必要としている人はいないんだ》

「…僕なんかを必要としている人はいないんだ」

 

 僕は、学校でひどいいじめを受けている。グズでのろまで、要領のいいタイプではないからだと思っているが、本当の理由はわからない。特に何かした覚えもないが、なぜかいじめのリーダーに目を付けられていた。強いて言うならば、奴らの気分というところだろうか。


 僕の通っている高校は、それなりの偏差値の高校だ。県の中でも、上から数えたほうが速いぐらい。そんな進学校で下卑たいじめなど発生するのかとなかなか信じられないが、事実である。周りも、勉強の鬱憤をいじめられている僕を見ることで晴らしているらしい。傍観者が、僕にとっては一番辛い。


 今日は、奴らにトイレに閉じ込められ水をかけられた。いじめテンプレートの1つだ。お金はしょっちゅうたかられる。持ち物は壊される。盗まれる。小さい頃からいつもいつもいじめられっ子だった。逆らったら倍で返される。


 実際にいじめられたことがないと、その苦しみは分からないだろう。何かされる度に、何か言われる度に息が詰まる。奴らの下卑た声、周囲の嘲笑いを含んだ視線。慣れることはない。何度もやられたことのある嫌がらせでも、される度に僕の心臓は初めてのように痛む。心が悲鳴をあげる。

 

 家でも安らぐことはない。風俗店で働いている母親は僕のことを未婚で産んだ。彼女曰く、本当は堕ろすつもりだったらしい。じゃあなんで産んだんだよと聞いたこともあるが、その時は酒に酔っていたらしく殴られた。会ったことのない父親は、母親の店の客だったとか。会いたいとも思わないが。


 母はほとんど家にいない。大体は付き合っている彼氏の家に転がりこんでいる。たまに家にいる時もあるが、不機嫌で僕に当たり散らしている。お前さえいなければ――……と。逆らうと(何もしていないときでさえ)、母は大抵ヒステリックに泣く。物を壊す。それか殴る。そんな最低な奴にいじめのことなど相談できるはずはないことは分かりきっていた。

 

 僕はどこにいても独りぼっちだ。いつもいつも――……


 物心ついたときから、僕は自殺を考えていた。保育園のプールを覗き込んで、この中でずっと息を止めてみたら死ねるんじゃないかなと幼い心で必死に考え、あまつさえ実行してみたこともある。もちろん、慌てふためいた保育士によって救出されたが。


「…漫画みたいだと思わないか?僕もそう思う。典型的なカワイソウなやつだなってよく言われる」


 僕は自嘲気味に笑い、ちらっとセリカの方を盗み見た。


どんな表情をしているのか。哀れんでいるのか、それとも蔑みか――……。僕の身の上を聞いた人は皆そのどちらかだ。卑しい興味を親切ごかした顔ごまかして相談に乗るよなんて囁き、お望み通りに話してやると想像以上に重い話にたじろく。

そして僕から離れていく。タイヘンソウダネなんて思ってもいないことを偽善者ぶって言って。

例外など、いない。皆、メンドクサイ奴には関わりたくないのだ。


 だが、セリカはそのどちらにも当てはまらなかった。

セリカは、ただ夜空を見上げていた。そして、ゆっくりとこちらを見る。

「それは、辛かったね」

哀れむわけでもなく、蔑んでいるわけでもない。

純粋に、共感してくれているような気がした。

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