第65話 デビルちゃんって可愛い
「おぉ~!」
夏休み最後の輝きを放つ太陽。
「うぉ~!」
エメラルドに輝く広大な海。
「ほぉ~!」
開放的な青空を自由の翼で飛ぶトビ。
「ぬぉ~!」
小さな橋でつながれた陸繋島――江ノ島。
「はぉ~!」
「お前レパートリー切れてるじゃねぇか! なんだはぉ~! って!」
「はぉ~! って言いません?」
「言わねぇわ!」
それにしても、感嘆の声の漏らし方のレパートリーが結構あったな。
女子高校生というのはモデルのポージングと同じくらい感動を声にする手持ちをストックしているもの。
きっと地上波のバラエティー番組には即戦力だろう。
「それにしても、綺麗ですねぇ」
「だな」
つい最近海を訪れたばかりだが、やはり何度見ても海は綺麗で、心を打たれる。
……それにしても、この物語の海の登場頻度高すぎやしないか?
作者の異常なまでの海の執念が垣間見える……作者とか言うな。
「今日は先輩の傷心デートですから、楽しんでいきましょうね!」
「傷心デート……ねぇ?」
「今回のデートは、先輩の腐れ切った心を天使こと聖女こと私、小向ららが癒すことが目的ですっ!」
「お前陽よりも陰の小悪魔だろ」
「なっ……それは聞き捨てなりませんね! ……でも、小悪魔ってちょっと可愛いですよね。デビルちゃん……うん、響きがいい」
胸の前で手をギュッと握りしめるらら。
もはやなんでもいいんじゃないかと思ってしまうのは俺だけだろうか。
なんでもポジティブ変換マシーンだなこいつは。
「それで、今日のルートはどういう感じなんだ?」
「そうですね……先輩は江ノ島に来たことはあるんですか?」
「うーん……たぶん小学生の頃に一回行ったきり……だな」
それも遠足で加恋と二人で迷った時に訪れたんだけどな。
……懐かしい。
「む……先輩、今他の女の子のこと考えてました?」
詰め寄って怒りをあらわにする。
「な……んなことはねぇよ?」
「クンクン……先輩から浮気男の匂いがします」
「お前は犬かっ!」
「わんっ!」
この人今吠えたよ。
でも、よくよく見ればららは結構犬に似ているのかもしれない。
ときたま猫になるけど。
つまり、犬と猫をフュージョンさせたら人間になるというわけだな。
なるほど分からん。
「まぁいいです。それほど先輩の心は腐っている、ということですね」
「だから腐っちゃいないんだよ……」
「別にいいです。だって――」
俺から一歩離れて、手を差し伸べて言う。
「昔のことなんて忘れちゃうくらい、夢中にさせてあげますから」
舌をペロッと出して、小悪魔ちゃんらしくにかっと笑う。
相変わらずこの後輩は、言うことが遊び心満載で困る。
――そうなればいいのに。
全く困る。
そんな気持ち、不純で汚らわしくて、最低最悪だ。
この気持ちを抱いてしまった自分が、情けない。
「さっ先輩、行きましょう? 今日は私がエスコートしてあげますっ!」
「……ったく、元気いいなぁお前は」
そう言いながら、ららの手にお手をする。
ふふっと笑って、
「すぐに先輩も元気にしてあげますよ。任せてください!」
「じゃあ、期待しちゃおうかな?」
「期待を裏切らない女の子、それが小向ららですっ!」
「すげぇ自称だな。……あとあとキツくなりません? 自分の首を自分で締めちゃってるんじゃないの?」
「それが実は不安のあまり昨日眠れなくて……って、何言わせてんですか! 変態!」
「なんで変態になるんだよ⁈ ってか言わせてないし! お前が勝手に言ったんだぞ⁉」
理不尽にも程がある。
だがららは負けじと応戦してくる。
「しらばっくれて……先輩は今までそうやって女の子をたぶらかしてきたんですか?」
「たぶらかしてねぇわ!」
「そんなわ――あ、そういえば先輩、一万回フラれてましたね。これは失礼」
「傷をいちいちえぐってくんじゃねぇッ‼」
「にゃははは~!」
……これ、俺の傷心デートじゃないの?
さっきから傷めちゃくちゃえぐってきてません?
俺でストレス発散しちゃってません?
「江ノ島楽しい~!」
「やけくそだこのやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
夏休み最終日、絶賛後輩にいじめられてます。
……全米が泣いた。
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僕の色んな作品を読んでくれている人がいたら分かると思うのですが、僕異常なまでに海好きなんですよね。江ノ島に限っては大好物。食べちゃいたい。
余談なんですが、12月29日の夜に一人で江ノ島の海に行って散歩したら、友達に本気で心配されました。
心配してくれる友達、大事にしよう……
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