第64話 女の子はめんどくさい?

 夏休み最終日、午前十時、駅前にて。

 俺は十分前から、ららとの待ち合わせ場所に来ていた。

 

 別に楽しみすぎて早く来ちゃったとか、そういうわけじゃない。

 ……俺までツンデレに覚醒したら破綻しかねないだろこの物語。

 主人公がツンデレとかすげぇめんどくさそう。


 ……え? 幼馴染に一万回フラれる主人公の方がめんどくさいしおかしいって?


 ……確かに。

 これには俺も「深い~」ボタンを押してしまう。

 深いのかはさておき。


 普段は絶対につけない腕時計で、時刻を確認する。

 まもなく十時が過ぎようとしたところで、パタパタと走ってくる足音が響いてきた。


「お待たせしましたぁ~!」


 一筋の汗を拭いながら、初夏の太陽のようにみずみずしい笑みを浮かべるらら。

 今ちょうど、時計の針が動く。


「待ってねーよ。待ち合わせ時間通りだ」


「なんと⁈ 私の計画では、ここで遅刻をして『ごっめぇ~ん遅れちゃったテヘペロ☆』を繰り出そうと思ったのにぐぬぬ……」


「遅刻を意図的にしようとするんじゃねーよ!」


「でも男子ってこういうの好きですよね?」


 残念ながら、男はぶりっ子あざとい系女子にめっぽう弱いんだよなぁ……。

 これは普段から女子との関りのなさが原因であり、つまり女子との関りの場を設けていない国が悪い。定期テスト並みの頻度で合コンを開催しやがれ。


「まぁ好きなんじゃねーの? 知らんけど」


「じゃあ先輩は、そういう女の子は好きですか?」


「ぼちぼち、だな」


 今の今まで加恋にしか眼中になかったので考えたこともなかったけど。

 まぁ俺も人並みに男子高校生なわけで、だから多分、ぼちぼち。


「むぅーはっきりしてないー! これじゃあ私がどう先輩を攻略していけばいいのか分からないじゃないですか」


 頬を膨らませて不満の意を露わにするらら。

 攻略しようとしてたのかよ。初耳だわ。


「俺は難攻不落だぞ?」


「……そうですね、確かに。何せ、一万回フラれても心が折れない鉄壁のメンタルの持ち主ですもんね。攻守ともに鋼ですね鋼」


「お前ちょくちょくいじってくるよな……恨みでもあんの?」


「恨みしかないです!」


「こりゃ末代まで呪われるやつかー」


「残念、先輩が末代です!」


「もっと恐ろしいわ!」


 でも確かに神之木家の男は俺しかいない。

 つまり……俺が子供を作らないとマジで末代じゃん。

 

 ららの発言が現実味を帯びてきて、少し冷っとする。


「まぁ可哀そうな先輩のために、救済処置は一応用意してるんですよ?」


「えっマジ? 女神かよ」


「先輩の女神ボーダーライン低すぎません? でも、悪くないですねぇ女神……ふふふん」


 どうやら女神という響きが気に入ったらしい。

 めちゃくちゃ適当に言ったので本当にそう思ったわけではないのだが……ここは気分よくなってもらおう。


 嘘は時に優しいよね。


「で・も! その救済処置を受けるための第一歩として……まずは何か言うことはありませんか?」


「言うこと?」


「はい。デートの待ち合わせに現れた女の子に男の子が必ず言わなきゃいけないことです」


「うーん……」


 俺が思考を巡らせている間、それを見かねたららがヒントとしてくるりと一回転する。

 イエローのロングスカートが満開に咲く花のように揺れる。

 次にポージングを取って、小さなポシェットの位置を前や横に変えた。


「……あぁーわかった」


「ほんとですか⁈」


「おう! もちろんだ!」


「では……どうぞ」


「……本日は足元の悪い中、お越しいただきありがとうございます」


 四十五度のお辞儀。

 それはさながら、イイ感じの旅館を訪れた際に出迎えられた時のお辞儀のようで。


「ってなんでやねーん!」


「えぇ違った⁈」


 一流漫才師並みの鋭いツッコみが飛んできた。

 胸を叩く手もなかなかに鋭い。これ絶対紅葉みたいに赤くなるよなぁ……。


「なんですかそのお葬式みたいな挨拶は! 今日はデートですよで・い・と! 全く……私の期待は裏切る癖に、読者の期待は裏切らないんですね」


「普通の読者とか言わないでくれない? 世界線がごっちゃになる」


「先輩のバカ! 分からづや! 女の子泣かせ!」


「うっ……!」


 ららが怒ったように、俺を置いて改札の方に向かう。

 今の言葉、結構心に突き刺さった……。


 急いでららの後を追い、横に並ぶ。


「ぷんすかぷんすか!」


「…………」


 非常に怒っていらっしゃるご様子だ……。

 やってしまったなぁと思いつつ、沈黙を埋めるために口を開く。



「今日の服、似合ってんな」



 そう言うと、ららが風を切るような勢いでこちらを向く。

 じぃーっと俺の顔を見た後、顔をぼっと赤くさせ、足早に改札をくぐってしまった。


「せ、先輩のバカ! アホ! 間抜け!」


「朝からすげぇ言われてんな……」


 そんなに俺、失言したかな。

 もしかしたら今の発言、セクハラだったのかもしれない。

 昨今はそういうのに人一倍敏感だからな……。


「悪かったって!」


「バカ!」


 謝ってきても許さないという確固たる意志を感じる。

 もうこれはどうしようもないなぁと思いつつ、ららの後を追った。




「先輩の……ばか」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


夏休み編、クライマックス!

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