第63話 小悪魔ちゃんはエナドリ
「…………暇だなぁ」
そう呟くも、天井からの返答はなし。
逆に返事が返ってきたら怖いけどな。
ひとまず何も考えないでコントローラーを動かす。
自分のキャラクターが剣を持って走る。
堅い鱗に覆われた竜の尻尾が体を薙ぎ払って、後方に飛んだ。
「死んだ、かぁ……」
表示された『ゲームオーバー』の文字。
それを機械的に見つつ、また天を仰ぐ。
――あれから。
俺は特にこれと言って特筆するようなことはせず。
あの四人で夏休みの宿題をしたり、クラスメイトと集まってカラオケに行ったりと実に高校生らしい時間を過ごした。
おかげで今年は珍しく、夏休みの宿題がもう終わっている。
と言っても、明日で終わりなんだけどな。
相も変わらず俺の心はざわついていて。
目を閉じれば、瞼にはあの日の加恋の姿が焼き付いていて。
何をしようにもあの日のことを考えてしまう。
あの日感じた、あの感情から俺はずっと――
『プルルルル……』
スマホが振動する。
ソシャゲの通知かと思って見てみれば、ららからの電話だった。
「もしもし」
『あっもしもし先輩? お久しぶりです! みんなのアイドル、小向ららですっ! キャピ☆』
えウザ……。
なんだこれスパムメール? 電話だからスパムコール?
どちらにせよウザさがマックスなんだけど。
だがしかし、男というものはバカな生き物で、こういうあざとい女子が好きなのである。
いやぁ愚かだなぁ……ま、俺もその一種なんだけどね。テヘペロ☆
「…………」
『な、なんで無言なんですか⁈ ……はっ‼ もしかして……私の声を聞いただけで先輩が昇天⁈ その可能性は十分に考えられる……先輩チョロすぎません⁈』
「どうなったら脳内そんなに砂糖だらけになるんだよ。世界一幸せ者だな、お前」
『それ、褒めてます?』
「絶賛だな」
『嘘くさぁー……』
つまらなさそうな声が聞こえる。
『まぁ先輩の胡散臭さは、修学旅行先の出店で売ってる絶対恋人ができるパワーストーン並ですもんね』
「すげぇ生々しいな……」
『あれを嬉々として買ってたクラスの女子の橋本と佐々木。果たして素敵な恋人はできたのかなぁ、ふふふ』
こ、こわ……。
俺は今女子の陰の部分を見ているのかもしれない……。
なんて壮絶なんだ女性社会。
ほんとにヒールのかかとでこっそり誰かのこと踏んでそうだ。(※あくまでも個人の憶測です)
『それはそうと、先輩寝不足なんじゃないんですかぁ?』
「な、なんでそれを……」
確かにここ最近あまり寝れていない。
そのせいかすっかり昼夜逆転生活である。
『だって……明日私とのデートじゃないですかー! 先輩のことだから楽しみ過ぎて寝れていないだろうなと思いまして!』
「違うわ! 遠足が楽しみで眠れない小学生じゃあるまいし」
『でも先輩、デートの回数なんて小学生とそう変わらないじゃないですか。ってことは……ザ・セイム!』
「一緒にするんじゃねぇッ! 俺だってな、デートなんて加恋と何回も……」
そう言いかけて、言葉が止まる。
果たして、あれはデートだったのだろうか。
いや、きっと違う。
あれは俺だけがそのつもりだった、勝手に勘違いしていたただのお出かけ。
それも幼馴染のよしみで。
だったら、俺は――
「いや、デートしたことないわ、やっぱ。ってことは俺、小学生に恋愛経験で負けてんのか……はずいな」
告白した回数は全世界で比べても勝てる自信があるけどな。
そんな渾身の自虐ネタは、心の奥底にそっとしまっておく。
『……まっ、先輩のことだからそうだと思いました。うんうん、さすが先輩』
「それ、褒めてる?」
『スタンディングオベーションしてもいいくらいです』
スマホから拍手が聞こえてくる。
ほんとこいつは人をバカにする天才か。
『でも、私がその先輩の初めてを奪ってあげますよ! 嬉しいですか?』
「言い方に悪意しか感じないけど……まぁ、嬉しいってことにしといてやるよ」
『ふふっ、先輩の傷心デートですけど、これは傷が癒えるどころか前より活発になっちゃうかもですねぇ』
「そんな傷ないけどな?」
『そんなこと言って……乙女のららちゃんには、先輩のことなんて全部お見通しなんですよ?』
「ははっ、そうかもな」
ぶー! と不満げな声が聞こえてくる。
もし本当に全部お見通しなら、かなり困るけど。
でもただの人間なわけで……いや、ちょっとからかい好きな小悪魔か。
『まぁ、今日はちゃんと寝るんですよ?』
「りょーかい」
『……でも私の声聞いちゃったから、また寝れないかもですけどね。あぁーなんて私は罪な女なんだろう~‼』
「うぜぇな!」
『女の子のウザいは、可愛いって意味なんですよ?』
「いつの間に世界変わってたのかよ……」
『つまり、女の子は無敵なんですっ! ふんす!』
女の子が無敵というよりは、ららが無敵なんじゃないだろうか。
きっと間違いないな。
『じゃあ明日、楽しみにしていてくださいねぇ~!』
「おう」
『ばいばい~‼』
ようやく通話が切れる。
終始ハイテンションだったらら。
実はあいつが一番楽しみにしてるんじゃないだろうか……。
「……ゲームするか」
答えはららのみぞ知る……だな。
俺はコンテニューボタンを押して、ゲームを再開した。
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