第51話 超高校生級の水着姿

「面白かったわね」


「そうだな」


 約二時間ほどにわたって繰り広げられた青春映画は、確かに面白かった。

 まぁこんな甘酸っぱい青春現実にあるわけないよなぁ、と少し悲しい気持ちになることはあったものの、純粋な物語としては本当に面白かった。


 ただ……


「(あいつ、なんで俺の手の上に手を重ねてきたんだ……?)」


 確かに両手を椅子に置こうとしたら重なってしまうのだが、加恋に限ってそんなことあるのか?

 正直、ドキドキしっぱなしだった。


「さっ、今日のメインイベントに移りましょ」


「お、おう」


 でも加恋はよほど映画が面白かったのか上機嫌だし、俺がここで何か言えばキレられること間違いなし。

 ここは加恋の機嫌を取ることにしよう。


 俺は軽い足取りで前を歩く加恋の後を追った。




   ***




「ほぉ~」


「ほぉ~、って」


「……うるさい!」


 いじったら怒られた。

 

「さっ、早く水着を選びましょ」


「お、おう」


 加恋は少し興奮した様子で水着を品定めしている。

 俺はそんな加恋の様子を見つつ、適当に近くにあった海パンを手に取る。


「サイズぴったりじゃん」


 これしかないわ。


 ということで、すぐさまそれをレジに持っていき、購入。

 いい買い物をしたなぁ、なんて満足感に心を満たされながら加恋のところに向かうと、ちょうどビキニを体に合わせていた。


「……」


「……」


 ビキニってメドゥーサだったの?

 体が全く動かなくて、まるで俺が加恋のビキニをガン見しているみたいになってるじゃないか。


「……えっち」


「すみませんッ!」


 俺はもはや否定などせずに土下座を繰り出した。

 男の本能とは、なんと虚しいんだろう……。


「あれ? 律はもう買ったの?」


「あぁ。水着に特にこだわりとかないからな」


「……一緒に選びたかったのに(ボソッ)」


「ん? なんて?」


「な、なんでもないわ! 律は私と一緒に私の水着を選ぶ!」


「は、はいっ!」


 返答がやけに上ずってしまった。

 加恋は気を取り直して、水着を選び始めた。


 女性の水着コーナーにいるとやけにそわそわして恥ずかしいので、加恋の横にぴったりとつく。

 めちゃくちゃアウェーだ……。


「何そわそわしてるのよ」


「い、いや……別に?」


「そう」


 これでそわそわするなという方が無理ある。

 俺ほどに耐性のない人間ならなおさらだ。


「私……し、試着したい……んだけど……」


 水着を手に持ちながら、チラチラと俺を見てそう言う加恋。

 その姿を可愛いと思ったのは、言うまでもないだろう。


「い、いいぞ」


「ほ、ほんとに? み、み、見てくれる?」


「おう」


「……」


 そして加恋は逃げるように試着室に入っていった。

 

 何にも考えずにただひたすら加恋を肯定したけど、よくよく考えてみれば加恋の水着姿を見るってことだよな。

 ……oh。


「……」


 布がこすれる音が、試着室の向こうからかすかに聞こえてくる。


 俺は健全な男子高校生である。

 これにドキドキするなというのは、不可能であった。


 一瞬に感じられた着替えタイムが終わり、試着室から加恋が出てきた。


「お、おぉ……」


 俺は水着姿の加恋を見て、思わずそう感嘆の声を漏らしていた。


「おぉ、って何よ……恥ずかしいじゃない」


 そう照れながらも、加恋は一歩、俺に近づいてきた。

 

 ……なんだこれ。

 俺の目の前に、一瞬にして海が広がる。

 そんな海の中心で、太陽の光を浴びて輝く、水色のビキニに身を包んだ美少女が一人。


 そう、俺の幼馴染である。


「浮き輪に空気入れないと」


「は? 何言ってんの?」


 加恋の心底俺を蔑んだ目で我に返る。

 そうだったここは水着屋さんだった。やべぇ俺の頭大丈夫か?


 いや、この水着の破壊力が異常だ。俺は至って大丈夫。


「それより……感想とかないの?」


「っ……す、素晴らしいかと……」


「……ふ、ふぅ~ん。そっか。……えへへ」


 あのツンデレのツン極振りの加恋がデレている……だと⁈

 今日これから雪で降るんじゃなかろうか。いや、もしかしたら夏に合わせて小玉スイカとか?


 おうけい俺の頭がおかしいようだ。


「私、これにしようかな……」


「いいと思います……よ?」


 加恋の輝きに直視することができず、斜め下に視線を落とす。


「……ねぇ、私のことちゃんと見なさいよ」


「っ……」


「……」


「……」


 沈黙に耐え切れなくなって、俺は致し方なく……そう、しょうがなく決意を固めて加恋の方を見た。


 制服からではわからなかった豊満な胸に、すらりと伸びた白い足。

 スタイルもやはり超高校生級だ。


 そんなことを思っていると、突然加恋が血相を変えて俺の手を引き、試着室に連れ込んだ。

 俺は何もできずに引かれるがまま試着室に連れ込まれ、加恋がカーテンを閉めた。


「⁈」


「……」


 かすかに加恋の息遣いが聞こえてくる。

 

 ここは試着室。

 高校生二人が余裕を持って入れるように設計されておらず、とてつもなく狭い。

 

 加えて加恋は大胆に肌を露出させたビキニ姿。


「……」


「……」


 ほんと、どうなってんだよ‼


 唐突のラブコメイベントに、動揺せずにはいられなかった。

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